第15話激闘の果て


【ハロハロー!ミウだよぉ~。】

【なんだよ。その挨拶。】


私とミウの姿が、画面上に映し出される。


こんな動画を撮った覚えはない。

どういうことだ?


私の疑問を余所に動画は進んでいく。


【私たちは、お前たちがいる世界とは、別の世界。いわゆるパラレルワールドから来た。】


パラレルワールド。日本語で言うと、平行世界。

以前聞いたことがある。

確か、可能性の分岐?みたいな話だったような…。


【いきなりで悪いが、お前たちに頼みたいことがある。…今回のマラソン大会で一位を取ってくれ…。】


それは無理な話だ。

今の私たちの順位は、ほとんど最下位。

そこから一位目指すなんて、正気の沙汰じゃない。


【無理な話だというのは、重々承知だ。しかし、そうしないと…全ての世界が、滅んでしまうんだ。】


「モゴモゴッ!?」


…えっ?

今なんて?


【…理由については、話せない。だが、必ず一位を取ってくれ!!頼む!!】

【お頼みもうすぅ~。】


ブチッ


動画が終わった。

というか世界も終わった。


【では、私はこれで…。】


カメラみたいなやつが消えていく。

それと同時に、ミウの口に張り付いていたガムテープがとれた。


「や、やばいよぉ~。チヨちゃん!走らないとぉ~!一位にならないとぉ~!」


もうこうなったら、ヤケクソだ。

やるしかない。


『行くぞ。ミウ!』


~終点まで残り10キロ~


「はぁ。はぁ。もう無理ぃぃ。」

『…私ももうダメだ。いくらなんでも無理がある。』

なんとか10キロ地点まで良いペースを保ってきたが、それでも順位は半分より下だ。


これは…本格的に危うくなってきたな。


『なんか速く走れる道具とかないのか?』

「神速以外は、特に持ってきていないよぉ~。」


大体、なんでこんな仕事を押しつけられなくちゃいけないんだよ…。

もう一人の私たちとはいえ、許せん。


『そうか…。仕方ない。走るぞ。』


一歩踏み出そうとした瞬間、体の力が抜ける。


あ、あれ?

これは…?

一瞬、めまいが起こる。

「無理しすぎだよぉ!私はともかく、チヨちゃんは運動部でもなんでもないじゃん!ゆっくり休んだ方がいいよぉ。」


『そんなことしたら、世界が滅びる。…早く行くぞ。ミウ。』


「だ、だけどぉ…。」


『いいから、行くぞ!』


「わ、わかったよぉ。」




~終点まで残り7キロ~

頭がクラクラする。なにも考えることができない。


あ、あれ?

今なにしているんだっけ?

なんか目の前がぐるぐるしてる…。


「ち、ちよちゃん!?大丈夫!?」


『ヘロヘロヘローー。』


「なに言ってんのぉ!?チヨちゃんがおかしくなっちゃったぁぁ。どうしよぉおおお。」



(ミウよ。)



「こ、声が聞こえる。誰!?」

(友を助けたいか…?)

「助けたい!」

(ならば、自らの力を解き放て!さすれば道は開けるであろう…。)

「自分の力を解き放つ…。分かった!!やってみるよ!…ウオオオオオオオッ」


『ミ...ウ!?その姿は...!?』


~トップを独走中の生徒~

遅すぎるぜ。もうちょっと骨のあるヤツがいても良かったんだけどなぁ!あはははっ。


ドドドドドドドドッ。

ん?なんだ?この地響きみたいな音は?


ドドドドドドドドドドドドッ。

なんかだんだん音が近づいてきているような…。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ。

後ろから強面なおっさんが迫ってきてる!?

しかも、あいつ女子生徒担いでいやがる

犯罪者か!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ

それにしても、なんて速さだ。

くそおおおおっ。


「追い…ついたああああ!」

『そのまま突っ走れええええ!!』


やらせるか。

これでも俺は日本を背負うランナーになる男だ。

どこのおっさんか犯罪者かはしらねぇが、俺の前を走らせるわけにはいかねぇ!!


『こ、こいつ。おっさん化したミウのスピードについていってるのか!?』

「こっちにも意地ってもんがあるんだ!!そう簡単に一位は取らせるかよ!!」


ゴールテープはもらった!!

この勝負俺の…!


『今だ!!投げろっ!』

「オーケー。チヨちゃんーーーロケットォォォ!!」

「やらせるかアアアッ。」


~終点まで残り0キロ~

『し、死ぬかと思った。』

「でも一位とれたね。危なかったぁ。」

それにしても、あの男。

ミウの速度についていってた。

化け物だろ…。


「…おっさん。俺の完敗だ。だがこんなにも熱いバトルは、はじめてだ!!楽しかったぜ。」


「えっ?あ!…うん。暑かったねぇ。」


こうして地獄のマラソン大会は幕をとじることとなる。


ちなみにその後、おっさん化したミウは、私を誘拐したのだと勘違いされて、警察から追われることとなってしまった。

どんまいだ。ミウ。




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