不穏の影
ダンジョン攻略の翌日。
今日の授業は休みなので、久しぶりにゆっくり街を散歩しようとしたところで、ナディアやレーヴェ、イデアと言った女子グループにばったり出会った。
「あっ、リノ君! 街に居るなんて珍しいですね」
「偶には息抜きに散歩でも、って思ったんだけど。そっちは買い物か何かか?」
いつも一緒に居るナディアとレーヴェはともかく、イデアまで同じグループに居るのは珍しい。
「イデアが二人と一緒に居るのは珍しいな」
「……そうですね」
俺が声を掛けても、イデアは素っ気なく返事を返すだけ。
あれ? 怒らせるような事何かしてたっけ?
「イデア、昨日の事で少し負い目感じてる」
「ちょっと、ナディアさん!?」
そんな俺の考えを読み取ったかの様にナディアがフォローしてくる。
ダンジョン攻略の際に、剣での戦闘に拘るあまりショゴスに捕まってしまったのを未だに気にしてるのか。
「その……私自身が剣での戦いに固執し過ぎていた部分もありましたし、何より皆さんとの連携も取ろうとしていなかったのも良くなかったと思います。だから、今日レーヴェさんが私の事を誘って下さったのは、皆さんとの親睦を深める切っ掛けにするのに丁度良いかと……」
「そんな堅い事言わずに!! 皆でお買い物を楽しもう?」
「ひゃっ!? レーヴェさん、近いです!!」
レーヴェの人懐っこさは本当に凄いな。
イデアも、自分の失敗を次に生かす為に努力を欠かさないのは流石だ。
「じゃあ、俺はこれで失礼するよ」
折角の女子達の交流を邪魔するのは悪いしな。
早々に立ち去るとしよう。
「あ、リノ君も一緒に来ませんか?」
足早に立ち去ろうとした俺の服の袖をレーヴェが掴む。
「え? いや俺は男だし、折角女子三人で仲良く買い物に行くんなら邪魔しない方が良いかな~って」
「大丈夫ですよ!! ね?」
レーヴェが残る二人に問いかける。
「うん、心配ない」
「男の方とも親密になっておくのは良い事だと思いますわ」
二人も別に異論はないようだ。
どうせ一人で散歩するにしても、色々考え込んでしまって気分が変わるか微妙だったし、そこまで強く断る必要も無いか。
「じゃあ、お言葉に甘えるよ」
軽い気持ちで彼女達に同行する事を決めた俺だったが、今度はまた別の意味で気分が落ち着かなくなるのにはまだ気づかなかった。
「……すっごい怨嗟の目線を感じる」
彼女達に同行すること数時間。
道行く人、特に男達の視線が凄い痛い。
確かに彼らからしてみれば俺一人に対して女子三人でハーレムか何かに見えるかもしれない。
だが実情は一人は単純に人懐っこく、もう一人はそう言うのに興味無さそうで、最後の一人は自身のステップアップ目的と、全く色恋沙汰に発展する気配ナシ。
俺としても寧ろ安心できるレベルだ。
「リノ君に選んで貰った服、今すぐ着てみたいです」
こらこらレーヴェ、街道でそう言う事を言わない。
お陰で凄い視線で俺が睨まれてるんですが!?
「俺の好みに偏っちゃってると思うけど、いいのか?」
正直、女子の服を選ぶとか俺には経験無さ過ぎた。
何がどう良いのかよく分からないので、とりあえず「全部似合うよ」みたいな返事してたら適当だと思われたのか、詳細な感想を言うまでは店から出させてくれないとか言う拷問じみた真似をされた。
その結果、彼女たちが選んだ服は大分俺の好みに寄ってしまっている。
「リノの好みで良いよ」
ナディアは、男子が確実に勘違いしそうな台詞を言って来る。
「へぇ。男の人って、フリルの付いた服が好みなんですね」
いや、違うんです……。いつも凛としたイデアがそう言う服着たらギャップ萌えするんじゃないか、とか思っただけなんです。
俺の所為でイデアの男性に対する認識が偏ってしまう……。
まぁ本人が良いと思うならもうそれで良いか。
「大分暗くなってきたな。もう帰るか」
「そうね。流石にこれ以上は寮母さんに怒られてしまうし……」
「えー、もうちょっとくらい大丈夫じゃないですか?」
「レーヴェ、我が儘言わない」
そうこうしてる内にあっと言う間に日が暮れてしまった。
そろそろ帰らないと寮の門限になって怒られてしまう。
俺達は寮へと向かって歩き出す。
「……ん?」
その途中でふと、俺の視界の端に黒い衣服に身を包んだ人物が映る。
その人物はふらりと路地裏の方へと入って行った。
(……まさか、あいつか?)
ナイアルラトホテップが持って来た情報。
その中にあの大司教らしき人物がこの王都周辺で目撃されたと言う物があった。
真偽は定かではないが、その可能性を考慮すると今の人物は……
「あ、ごめん。俺もう少し寄る所あったんだった」
「そうなの?」
「あぁ。だから三人は先に帰ってて大丈夫だよ」
「リノ君もなるべく早く寮に帰る様にしてね」
「あぁ」
先程映った細身で長身の姿に嫌な予感がした俺は、三人と別れてその人物を追う。
確か、ちょっと戻った場所の横道に消えてったよな。
追いつければ良いのだが、既に姿は見えなくなっているし、どうだろうか。
そもそも人違いの可能性もあるが……
そう思いながらも、人が通った気配のある道を辿って行く。
すると、行き止まりの様な場所に辿り着く。
「……怪しいな」
一見何もない行き止まりだが、『世界の眼』を使って見ると魔力で偽装された入り口の様な場所がある。
……流石にこれ以上は危険か。
俺はこの場所を覚えて、来た道を帰ろうと後ろを振り向く。
「きゃっ!」
「わっ、と……イデアじゃ無いか。どうしてついて来てるんだ?」
勢いよく振り返ったので、直ぐ近くに居た人物とぶつかりそうになる。
俺の後ろに居たのは、先程ナディア達と一緒に帰ったと思っていたイデアだった。
「どうしてって、以前レーヴェさんとナディアさんが、最近貴方に避けられていたり隠し事をされている気がする、と仰っていたのを思い出したのでこっそり付いてきたのですけど……。貴方こそ何をしてますの?」
「俺は、その~」
何と言ったら良いか判断に迷うな。
怪しい人物を追いかけてたら魔術で隠蔽されてる入り口を見つけました、なんて馬鹿正直に言えないだろ。
俺が適当にはぐらかそうとした時、背筋に悪寒が走る。
「不味い、隠れろ」
「え? ちょっと、むぐ!!」
俺はイデアの口を手で塞ぐ。
俺の焦った様子が伝わったのか、イデアも黙って俺の視線の先を見る。
ゆらり、と何も無かったはずの場所から現れたのは……間違いない。
大司教フサッグ。奴はまだ生きていた。
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