帝国の足音
無事ナーム村の異変を解決し学園に戻って来た俺達は、信徒達の拠点に向かっていたレーヴェとイデアに合流した。
合流した二人から聞いた情報だと、俺達が【
恐らくフサッグが掛けた呪術の支配権はフサッグァに移っていたのだろう。奴が倒れた時に呪術は解け、操られた人たちも元に戻ったらしい。
フサッグとフサッグァがいつ出会ったのかは不明だが、両者共にクトゥグァの復活を目論んでいたので、下位の炎精達を通じて手を組んだ……と言う感じか。
「これで信徒の拠点とかは問題ないな」
「そうね。各地に攫われた人たちも騎士団が帰してくれているでしょうし」
信徒達が贄を捧げる事が無くなったので、これで大分奴の力を削げるだろう。
あとは王都付近のダンジョンに沸く魔物を掃討し続ければ、少なくとも奴はこれ以上力を貯める事は出来ない。
問題は既にどれ程の力を貯め込んでいるかだな。
奴が復活する予定の時まではあと半年ほど。
この世界も一年が十二ヶ月なので、残り六か月だ。
そろそろあの山の付近の住人を避難させた方が良いな。
そう考えてると、俺達の方に数人の騎士が駆け寄ってくるのが見える。
「コルヴァス帝国より我がエーデリオン王国に向けての進軍が確認されました!」
「進軍……え? 何で?」
コルヴァス帝国と言うのは、この王国の南方に位置する大国。
過去数十年に渡り王国としのぎを削りあっていたと言われているが、今は休戦状態だと聞いている。
その国がいきなり攻め込んできた?
「一体どういう事ですか!?」
イデアも同じ疑問を持ったようで、駆け付けた騎士達に問い詰める。
「信徒達の拠点の一ヵ所が帝国領付近に位置していて、騎士団の者達がその場所を掃討したあと、王都に向かって進軍している帝国軍の姿を発見し、急いで帰還した次第です」
「そうか、国王陛下への伝達は?」
直ぐ近くで話を聞いていたのか、アスタリオンが騎士に声を掛ける。
「済ませております。ですが、既に帝国は例の異神が封印された山の付近まで迫っていると」
「やられたな。急いで集められるだけの人員を確保しろ。あわせて周辺住民の避難も迅速に済ませるんだ」
「はっ」
命を受けた騎士は直ちに動き出す。
「俺達に出来る事はあるか? 出来る限りの事はやってみるつもりだが……」
騎士団の人員は信徒の拠点の探索や破壊、連れ去られた人達の護送でかなりの数が割かれてしまっている。
相手の戦力がどれほどかは分からないが、こちらが割ける戦力が少ないのは明白だ。なら、俺達も出た方が良いだろう。
「助かるよリノ君。特級クラスの皆にも手伝って貰えれば勝利を掴むのも容易になる」
アスタはそう言って特級クラスの面々を招集し、俺達は急いで帝国軍の迎撃へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
集まった俺達は、特別製の馬車に乗せられて移動している。
魔術で機動力が向上したこの馬車は、通常三日掛かる道のりを半日で移動できるとか言う化物じみた性能を誇る。
とは言え量産が難しいらしく、国内に五台ほどしかないらしい。
結局、招集を受けて集まったのはルーカスを除いた九人。
ルーカスは招集を無視したのか集まる事は無かった。
「帝国が攻めて来たと言うのは本当か?」
「ああ、本当だ。帝国がこちらに進軍しているのが目撃された」
あとから集まった四人がアスタの言葉に驚愕する。
そこから一番早く立ち直ったのはアルメダだった。アルメダはアスタに疑問をぶつける。
「という事は帝国は本格的に王国を攻め落とす準備が整ったのかね?」
「わからない。だがかなりの規模の軍を率いてこちらに向かっているのは確かだ」
「そうなると本格的な侵攻、と言わないまでも王都に多少なりとも打撃を与えて来るつもりかな」
帝国は相当量の軍を連れこちらに向かっているらしい。
クトゥグァの対策で人員を割かれた王国が対処できるかどうか……。
「【
「あぁ。第二席と第十席を派遣するそうだ」
俺はウィルとアスタの会話に出て来た【
「【
俺が疑問に思って居ると、イデアがそっと教えてくれた。
たった十二人で一つの組織として成り立つって、どれだけ強いんだ……。
「第十席と言うと、私たちの担任であるマリナ先生ですね」
「え、先生ってそんな凄かったんだ……」
以前のショゴスに捕まった件が尾を引いて、凄いと言うイメージがあまり湧かなくなったんだよな。
だが、訓練だと鬼の様に強かったので間違いでも無いのかもしれない。
「私達はどう致しますか?」
「呼び出されたという事は、俺達も作戦に参加するんだろう?」
双子のエルマとエルモが問う。
「あぁ。みんなにはそれぞれの得意分野で活躍してもらいたい。リノ、ウィル、エルモ、ナディア、イデアの五人は僕と共に前線へ向かう。他三人は後方支援をして欲しい」
アスタの指示に全員が頷く。
授業で行われていたと言うのは知っていたが、実際に戦争に巻き込まれるとはな。
クトゥグァの件もあるし、出来るだけ早く終わらせたい。
そんな俺の思いとは裏腹に、事態はさらに最悪の展開へと進んで行くのを、この時は誰も気づいていなかった。
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