無自覚系村娘
アルフが水晶玉、もとい魔晶玉を取りだした瞬間、俺は『異世界転生系主人公はこんな時どうしてたっけな~』なんて事を考えていた。
特に気にせず触れて自身の力を周囲に驚かれたり、逆に自身の力を隠す為に加減したり、クラスごと転生の奴だと触れずに隠れてやり過ごすなんてのもあった気がする。
なんでこんな事考えてるかって?
まさか自分がその状況になるとは思わないじゃん。
ちなみにこの場合はどう対処するのが適切なのか教えて欲しい。
さて、俺がしばらく唸っている姿をどう捕らえたか、
「大丈夫!! この魔晶玉は特注品で君達の魔力量にも耐えられるはずだよ!!」
と、アルフは言う。
なるようになれば良いか……。
そう思って俺は魔晶に手を当てる。
スッ、と体から少し魔力が抜かれる感覚の後に、魔晶は鈍く濃い茶色と強い黄緑色に発光した。
これは地・植物属性に高い適性を持つ証だ。
「お、良い輝きだ! 神格を失ってなおこれほどの魔力、これは中々の逸材じゃないか?」
どうやら、俺自身の魔力量だけでも一般的な人間と比べると結構優秀なようだ。
その事実を聞けて少し満足だ。
「次は、私」
俺次にはナディアが手を当てる。
ヴァテァを身に宿したままのナディアの魔力量は流石と言うべきか、とても濃い蒼と蒼が掛かった強い白色、そして深い緑色に輝く。
これは水と氷、風の属性に適性がある証拠だ。
「やはり流石だ。神格を身に宿しているだけあるね」
アルフはさも当然だろうと言った印象だ。
まぁ事前に事情知ってたしな。今更驚く事でも無いのだろう。
「ふ、二人とも凄いです……。最後は私ですね、えい!!」
俺とナディアの結果にあわあわしていたレーヴェが最後に触れる。
勢いよく魔晶に触れた手から金色の魔力が流れていくのが見える。
……ん? 感覚として流れていくのがわかるのは良いけど、
今の俺はマテァが消失したことで『世界の眼(仮)』を殆ど失っている状態だ。
無くなっている訳では無いが、精度が著しく落ちている。そんな状態で魔力の流れが見える? ナディアの時ですらそんな事無かったのに?
これって流石にヤバいんじゃ……と思っていた所に―――
パリン――――
「あ、あれ!? ごご、ごめんなさい!! 魔晶玉割っちゃいましたぁ!!」
それはもう清々しい程に気持ち良い音を立てて魔晶玉が真っ二つに割れた。
流石の二人も、この結果に唖然としているが、そりゃそうだろう。
なにせ神格を有したナディアすら優に超える化物じみた魔力量を、ただの村娘であったレーヴェが持っていたのだから。
「あ、あのー……。アルフさん? イデスさん?」
レーヴェが恐る恐る二人に話しかける。
二人は意識が飛んでいたのか、ハッとした様な顔をした後に元に戻った。
「あ、いや、凄いなレーヴェちゃん。まさかこの最上級の魔晶玉を割ってしまう程の魔力を保有しているなんて」
「リノ君とナディア君も凄まじいがレーヴェ君の魔力量は、何と言うか……規格外だな」
二人は引きつった笑みを浮かべる。
俺も似たようなものだ。
レーヴェは治癒魔法に高い適性を持っていた。
治癒魔法はその名の通りケガや、強い物になると多少の部位欠損すら修復を可能にする魔法だ。
その代わり、通常の魔法に比べて魔力消費が多いという特徴がある。
一日に何度も治癒魔法を使っても平然としているレーヴェを見て不思議に思っていたが、こういう事だったのか……。
「これなら君達三人とも、特級クラスでの入学はまず間違いないだろう」
「そうだね。この件については僕の方から試験官達には通達しておくから」
「え、試験受けなくても良いんですか?」
「あぁ、大丈夫だ、問題ない」
どうやら俺達三人とも試験なしで学園の最上位クラスに入れるらしい。
これは運が良いな、お言葉に甘えるとしようか。
「そうだ。学園寮の場所は分かるかい? 良かったら教えておくけど」
結局この後はこの学園に入る際の注意事項や、寮の説明、普段の授業の受け方なんかをザッと説明されて何事も無く帰された。
案外あっさりと帰されて拍子抜けしたが、何もないに越したことは無いだろう。
俺はナディアとリーヴェと別れて、そのまま学園の男子寮へと向かう事にした。
◇ ◇ ◇
「君から見て、彼らはどう見えた?」
私は古い友人に問いかける。
「どうも何も、あの子達は関係ないように見えるけどねぇ?」
イデスはそう言って笑う。
三人の内、リノ君とナディア君が囚われていた邪教団「アンラ・マンユ」
彼らの話では二年前の事件で教徒全員が死亡したらしいが、どうも最近になって奴らが活動しているという情報を仕入れた。
デマか事実か分からない以上、慎重に動く必要があるが、手を打つなら早期の段階で打つに越したことはない。
「何にせよ、彼らには常に目を光らせておく必要がありそうだ」
邪教団に関わりのある二人は勿論、僕の持っていた最高峰の魔晶玉でさえ耐えられない程の魔力を持つ少女、レーヴェ。
出来れば彼らをこちら側に引き入れておきたいものだ。
「君の所に引き込む、と言うのは悪くない提案だと思うんだけどね」
私が言葉をかけると、彼は困ったように肩をすくめる。
「止めといた方が良い。僕の所はちょっと……いや大分しんどいからね。少なくともあんな若い子達に生き地獄を味合わせるような真似はしたくない」
「まぁ、もっともだね」
彼の所属する騎士団は名実ともに王国最強の戦力であると同時に、上位の騎士になればなるほど色々黒い部分も請け負う事になる。
彼らの様な若い子を任せるにはまだ早いだろう。
ひとまずこの件は後回しにしても構わないだろう。
では、今やらなきゃいけない事だが……
「……なぁ、イデス。明日の入学式だが、君が学園長代理という事でスピーチしてくれたりはしないかい?」
「いい加減諦めな。僕は絶対にやらないからな」
「デスヨネー」
友人に窘められ、諦めて私は苦手なスピーチの原稿を書き出しに掛かるのだった。
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