学園長とご対面
王都の門をくぐると、そこから広がって行く街並みが見える。
どこも賑やかな様子で、ここがこの国一番の街である事を証明しているかのようだ。
「うわぁ、凄い人だかりですね。村じゃこんなに賑やかな事は無かったです」
「ま、それは仕方ないよ。地理的にもここは色んなところから人が集まって来るからね」
実際、王都は王国の中心に位置しているので、国中の至る所から人や物がこの街に集まってくるのだ。
辺境の一村であった俺達の村に比べたら、その規模は軽く何百倍とかはあるだろう。
その光景にレーヴェは圧倒されているのか、「ほわぁ……」なんて気の抜けた声を漏らしている。
「リノはそこまで驚いてないね」
「そうか? これでも結構浮かれてるよ?」
前世の記憶だったり
内心は初めて見る異世界の街並みにワックワクなんだけど。
「そう言うナディアもあんまり驚いてる様子はないけど」
「そう? じゃあ私達、似た者同士だね」
どうやら顔に出てないだけで、ナディアも俺と同じくこの光景に驚いているようだ。
知識として知っては居ても、やはり実物を見るのとは天と地ほどの差があるのだろう。
そんな街並みをしばらく眺めていると、次第に大きな建物に近づいていく。
多分、あれが王都の学園だろうか。
俺の眼でも凄い上品な建造物だってのは分かるくらいに綺麗な造りだ。
下手すると、遠くに見える王城とかと並ぶレベルで金が掛かってるだろうな。
「はわわ、何ですかコレ!? こんな建物一つあったら村の人たち全員が一緒に住んでも大丈夫どころか、中に畑や牧場まで一緒に作れちゃいます……!!」
学園の造りの豪華さに驚くレーヴェの反応が中々に楽しい。
御者の人もまんざらでもない様子で、レーヴェにこの学園が如何に凄いのかを説明している。
伊達に王国中の子供を集めている訳では無さそうだ。
馬車は学園の入り口付近で止まり、俺達が下りるとすぐに出発していった。
近くで見ると本当に凄いな……なんて思っていると、学園の敷地からだろうか。
数人の騎士達が俺達に近づいてきた。
「黒髪の少年に白髪の少女……。君達がリノ君とナディア君で合ってるかな?」
「え? そうですけど……」
「すまない、君達二人には少し話が有ってね。ちょっとついて来てくれるかな?」
なんだ? 何か凄い警戒されてる気がする……。
敵意や害意は感じないが、何人かの騎士がそれとなく緊張している様子が見て取れる。
「わかりました」
「ちょっ、ナディア!?」
どうしようか……などと俺が考え込んでいる内に、ナディアは二つ返事で了承してしまった。
(お父さんがここはついて行った方が良いって。私もそう思う)
驚く俺にナディアから念話が飛んでくる。
ナディアの言うお父さんとはヴァテァの事だが、ヴァテァの意見でもあるのか。
まぁでも、確かにここで彼らの言う通りにしないのは後々面倒そうだ。
「わかりました、ついて行きます」
「協力感謝するよ。大丈夫、悪い様にはしないさ」
そう口にするのは、いかにも人の良さそうな顔立ちの騎士。
にっこりとほほ笑む顔には、確かに一片の悪意も感じられない。
「あ、あの! 私はどうすれば……」
オドオドとした様子でレーヴェは申し訳なさそうに尋ねる。
「君は……たしかレーヴェ君だね。君は二人の友人かい?」
「はい! 二人は私の親友です!!」
堂々と親友宣言をするレーヴェから俺とナディアは眼を逸らす。
いや、悪い意味じゃなくて、単純に滅茶苦茶恥ずかしくてレーヴェの方を見れないだけだ。
心なしか、騎士の人たちもクスクス笑ってる気がするんだけど……。
「ハハハ、そうか、親友か。なら仕方ない、君も彼らと一緒に来ると良い。私がどうにか許可を取ろう」
おや? この優しそうなおじさん騎士、意外と偉い立場の人なのか?
だとすると人は見かけによらないものだな。
◇ ◇ ◇
俺達三人が連れてこられたのは、学園内のなんか理事長室とか学園長室みたいな感じのトップが居そうな部屋だ。とにかくバカでかい。
俺達を連れて来た騎士達は、おじさん騎士以外の全員が学園内の警備に戻された。
人払いしなきゃいけない内容なのか……と思うのと同時に、やっぱりこのおじさんは只者では無いと言う直感は当たっていると思う。
『君たちはここでゆっくりしていてくれ』
そう言われ、俺達はこの部屋に置かれていた高価そうなソファ(多分)に腰掛けている。
おじさんはだだっ広い部屋の奥に見える部屋に入って行った。
あそこは学園長だかの個室か何かだろうか?
そう思っていると、おじさんとそれとは別にもう一人出て来た。
出て来たもう一人の男性は、おじさんと同じくらいかそれより少し若い印象を受ける。
「やぁ、お待たせしてしまってすまない。私はこの学園の長、アルフレッドと言う者だ。気軽に『アルフ』と呼んでくれても構わないよ? あ、ちなみにこの騎士の人はイデスだ、よろしく!!」
アルフレッドと名乗る人物は、やはりと言うか学園長ポジの人だった。
しかもおじさん騎士の名前も勝手に暴露している。が、イデスと呼ばれたおじさんは大して気にしていない様子だ。
と言うか初対面でなんでこんなにフランクに話しかけて来るんだこの人……。
「わ、私はリ―ヴェと言います! よよ、よろしく、お願いしましゅ!!」
緊張で噛み噛みのリーヴェが真っ先に自己紹介する。
俺達もそれに続く形で挨拶をする。
「俺はリノと言います」
「私はナディア、よろしく……」
全員が自己紹介を終えると、彼はうんうんと満足そうに頷き話を始める。
「さて、リノ君とナディアちゃん、君達はこの国で管理している出生記録表に名前が無いんだ。たとえ辺境の村であったとしてもこの王国の領土である以上、出生記録が無い……なんて事はまずありえないんだよね」
話始めた彼は先程までのおっとりした雰囲気から一転、ピリ付く様な厳格な気配を漂わせる。
成程、この王国がそう言った国民の記録を押さえているというのは初耳だ。
ヴァテァの知識はあくまで旧来の物が多く、最近の知識と言うのはそこまで無かった。
「村人や村長の話によれば二年前の『異神降臨の大災害』の日、君達はボロボロな姿で村の付近に倒れていたと報告がある。この事実に、異なった点や不明な点はあるかい?」
「いえ、無いです」
「……ない」
俺とナディアは肯定する。
別にやましい事でもないし、何より応対しているアルフの視線が
ふむ、と言って彼は話を続ける。
「では、単刀直入に聞こう。君達は、邪教団『アンラ・マンユ』を知っているかい?」
俺とナディアは頷く。
邪教団アンラ・マンユ。それは、俺達が囚われていた教団の名前だ。
二年前のあの日、大司教フサッグがクトゥグァを召喚し、一人残らず消え失せた教団の名。
目の前の彼が名を出すという事は、割と知名度のある集団だったのだろうか?
そんな事を考えているとアルフから鋭い角度の質問が襲ってきた。
「君達は……奴らの生き残りなのかい?」
一瞬で俺はその質問の意味を理解した。
この二人は、ここで俺達を殺す可能性がある。
目の前の彼も、その後ろで佇む騎士も、ただならぬ威圧感を発しているのがその証拠だ。
下手に取り繕ったり嘘をつくのは得策ではない。
かと言って「生き残り」と言う部分も引っかかる。
何故「仲間」と言う表現で無いのか。
もしや、俺達は何か試されている?
もしくは俺達以外に別の生き残りが居るというのか?
ともかく、事実を事実として話す方が良さそうだ。
「……はい。俺とナディアは、教団の生き残りです」
「……認めるんだね?」
「えぇ。ただ『生き残り』ではあっても、奴らの『仲間』と言う訳ではありません」
「なるほど、続けたまえ」
一向にプレッシャーを放ち続けるアルフに、俺は転生してから知りうる五年間の出来事を一つの漏れ無く話した。
邪神の生贄として育てられた事、邪神が降りて来た後は教団を脱するべく三年の歳月をかけ準備していた事。その脱出の当日に大司教が外の神を呼び起こし、教団員は全て死に絶え、俺の中に宿った神格がその神を封じ込んだこと。その後は村で何の変哲も無く育てられた事。
彼はその全てを聞き終えると、今度はナディアに向かって質問をする。
「ナディア君。いま君の中に宿っている神格は、『邪神ヴァテァ』で間違いないかい?」
するとナディアはぶんぶんと首を横に振る。
「邪神じゃない。お父さんは良い神。私とリノが生きて来れたのはお父さんとお母さん、それとあの村の人たちのお陰」
ナディアの言葉を聞いてアルフは眼を丸くすると、アッハッハと笑い始めた。
「いや、失礼。なるほどね、君達は確かに教団と無関係、とは言えないが、奴らとは全く違う子たちと言うのはよく分かったよ。ッフフ……」
「アルフ、ちょっと笑いすぎだよ」
「なんだいイデス、少しくらい構わないだろう。邪教団に育てられた子がこんなに良い子だなんて、僕は笑う以外出来ないよ、ハハハ!! は、ははは……」
なんだかアルフが急に落ち込み始めたぞ……。
なんか、その、多分家庭環境と言うか子供と上手く行ってないんだろうな。
「なんていうか、上手く行くと良いですね……」
「あぁ、ありがとう」
何で俺初対面のアラフォーくらいのおっさん励ましてるんだ?
「さて、僕の事は置いといて!! 今度はレーヴェちゃんも含めた君達三人に対しての要件だ」
一気に気分が180度回転したアルフは、唐突に懐から水晶玉の様な物を取り出す。
「これで君達の魔力属性、魔力量等を測らせて欲しい」
なるほど、お約束の魔力測定ですね。
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