大司教、終幕
何とか間に合ったみたいだ。
二人は牢の中に入れられてはいるが、見た所怪我などは見当たらない。
「よし、今出すぞ」
牢は外側から錠が掛けられている様で、内側からだと開けられないが、外側に居るなら錠を破壊すれば開けられそうだ。
確認したところ、牢自体は魔力を霧散させる力があるらしいが……錠の方は普通の金属っぽいな。
俺とナディアはそれぞれ扉に付いた錠を破壊して、二人を助け出す。
「ありがとう、ナディアちゃん! リノ君!!」
「無事で良かった」
「助かりましたわ、ありがとうございます」
「いや、こっちこそ迷惑かけちまったな」
さて、取り敢えず二人の救出は叶った訳だが……。
「フフフ、また貴方たちですか……。懲りないですねぇ?」
「まあお前なら生きてるだろうな」
先程岩の波で弾き飛ばしたフサッグだったが、やはりと言うか死んではいなかった。
だが身体の再生の仕方や、魔法で吹き飛ばした時の明確な手応えを鑑みると、こいつが本体で間違いない様だ。
「我が神の権能があれば、私はあの方の為に無限に尽くす事が出来るのです!!」
「安心しろ、今度こそ完全に始末してやる」
厄介なのは大体クトゥグァの権能を使った行動で、奴自身は多少魔術や呪術に長けている程度だ。
疑似的な不死性も、権能を剥がす事が出来れば打ち破れるだろう。
俺は懐から魔晶を取り出し、それを奴目掛けて撃ちだす。
撃ち出された魔晶の特性に気が付いたのか、フサッグはその魔晶を避ける。
「今の忌々しい魔力は、一体?」
「お前に教える義理は無いな」
俺は立て続けにもう一発撃ち込む。
当然の様に躱されるが、奴も先程までの余裕の表情から、憎らし気にこちらを見る。
「不快極まりない物を使ってくれますねぇ。良いでしょう、ここで貴方達はおしまいです」
そう言うと奴は体から分身を出し始める。その数は三体。
本体含めて丁度こちらと同じ数だ。
「流石に狭いな……」
洞窟内は四人だけでも牢が並んでいるせいで狭く感じたが、流石に分身まで増やされると動きにくく、触れられたらマズいこちらが不利だ。
「ナディア」
「うん、合わせる」
俺はナディアに合図すると同時に地面に手を触れ、洞窟を拡げる。
洞窟全体が大きな音を立て、空間が横に広がって行く。
それと同時に、ナディアが暴風で奴の本体のみを洞窟の奥へと吹き飛ばす。
俺は吹き飛ばされた奴を追って、分身たちの脇を駆け抜ける。
分身たちは突然の事に反応が遅れるが、すぐに本体の後を追おうとする。
が、本体と同じようにナディアの暴風で吹き飛ばされる。分身は広げられた洞窟内に散り散りになったようだ。
「レーヴェ、イデア。一人ずつ相手をして」
「はい」「分かったわ」
狭い場所で纏まって相手するのではなく、広い場所で別々に相手をして戦力を分散させる。
本体の権能を剥がせば、必然と分身は消えるが、それまで邪魔される訳には行かない。
分身の相手を三人に任せて、俺は奴の本体を追って更に洞窟の奥へと進んで行った。
「ようやく追いついた……」
ナディアの魔法が強力だったこともあり、奴は洞窟のかなり奥に飛ばされていた。
勿論死んではいないが、相応のダメージを食ったのか体の一部が再生中だ。
そこに容赦なく魔晶を撃ちだす。
「ぬぅ……」
動きは鈍くなっているが、それでもまだ回避出来るだけの再生は終わっているようだ。
魔晶は奴の脇腹を掠めて飛んでいく。
「動きが鈍くなってきたな」
「忌々しい、実に忌々しい!! 我が神と私の繋がりを絶とうと言うのですか!?」
先程から撃っている魔晶。
それは、昨日のダンジョン攻略後、マリナ先生に無理を言って【聖煌術】を刻印して貰った特注の魔晶だ。
悪しき力を封じると言う【聖煌術】は、どうやらフサッグにも効き目があるらしい。
少しづつだが、確実に動きを鈍らせることが出来ている。
「フフフ……ですがこの魔力、精々が繋がりを薄めるのみで絶つまでには至らない様ですねぇ」
だがこの魔晶でも権能を絶つまでには至らないか。
それに、刻印して貰った数も結構少ない。本当に動きを鈍らせるのが精いっぱいだろう。だが構わない。
奴は俺が魔晶を撃つ手を止めたのを見て、こちらに接近してくる。
掴まれると厄介だ。俺は避けながら、奴目掛けてもう一発魔晶を放つ。
放たれた魔晶は奴の肩を掠めて壁に突き刺さる。
「フフフ、ハハハハハ!! 最早その程度恐れる事などない」
近づいてくる奴を躱し、そこに魔晶を撃ち込むのを繰り返していたが、次第に奴は魔晶を撃ちこまれても怯まずに突っ込んでくるようになってきた。
それに、奴だけでなく次第に俺の動きも鈍って来たのか、最初は簡単に回避出来ていたのが、今は紙一重で触れられてしまいそうになる程だ。
「はぁ、はぁ……お前も何か仕込んでるな?」
「えぇ勿論ですとも。自らの拠点なのですから、自分に都合の良い様に改造するのは当然の事……。我が神に仇成す存在を弱らせる呪術を少々……」
だんだんと調子が戻って来たのか、奴は次第に饒舌になって来た。
こちらを追い詰めていると思っているのだろう。
事実として俺の手元に残っている魔晶は残り一つだが、あとはこの一つで完成だ。
俺は自分の真上に魔晶を撃ち出した。魔晶は当然天井に突き刺さる。
「おや? 自暴自棄になってしまいましたかな?」
「いや、これで良い。『堅牢の館』」
俺が魔法を発動すると同時に、今まで撃ち出して洞窟内に刺さった魔晶が鈍く輝きだす。
そして、俺と奴を取り囲むように結界が生み出される。
「む? ……お、ぐう、おおおおおおおおおおおおおお!!!???」
大きな叫び声を上げて、フサッグが苦しみ始める。
この結界は魔晶に刻印された【聖煌術・
結界内は外界との繋がりが一時的に遮断され、あらゆる干渉を無効化すると言った能力。
マテァがクトゥグァを封じた様に、俺も奴の権能を封じる事が出来る。
と言っても魔晶に刻印を施して、それを幾つも使ってようやくと言ったレベルだが、どうやら効き目は抜群の様だ。
フサッグはみるみる内に体が崩壊していく。
今まで権能で再生し、誤魔化していたツケが回って来たのだ。
「これで、俺の勝ちだな」
もう奴は権能の恩恵を受けられず、このまま消滅するだろう。
権能が切れたことで、ナディア達が足止めしている分身も消えたはずだ。
「ク、クフフ……。私が、自分が滅ぼされた時の事を、考えてないとでも? 否!! 既に我が神の信奉者は増やしてあるのです。私が消えても、彼らが我が神を復活させてくれることでしょう!! ハハハハハ―――ぶげっ」
俺は奴の笑い声を遮って魔法で顔面を押し潰す。
そして俺は、負けじと奴に言い放った。
「じゃあ、そいつらも纏めてぶっ潰せばいい話だ」
完全にあいつが消滅したのを確認して、俺は魔法を解く。
『堅牢の館』のデメリットとして、自身も内部に入っていないと敵に干渉出来ない、内部に入っている場合自身も味方のサポートを受けられないと言うのが辛いな。今後の改良に役立てよう。
「リノ君無事ですか!?」
「あぁ終わったよ」
どうやら分身を相手していた三人も、無事だったようだ。
分身が消えたのを見て、こちらに来てくれたらしい。
「奴は倒したけど、どうやら他にも仲間がいるらしい」
「そうなのね……」
だが、奴の様にクトゥグァの権能を持った奴は居ないだろう。
クトゥグァが奴に権能を与えたのは、奴が自身を呼び出した存在だったからだ。
他の拠点は見つけ次第叩けば問題無い。
「だけどあいつを倒せたのはデカいな。とにかく、今日はもう帰ろうか」
「そうね。色々な事があってくたびれちゃったわ」
「寮に帰って美味しいご飯でも食べましょう」
「うん」
もうすぐ夜も明ける頃合いだ。
早めに帰らないと寮を抜け出した事がバレてしまうだろう。
足早に寮へと戻った俺達は、無事にバレる事もなく帰れたのだった。
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