ショゴス・ロード
イデアとマリナ先生がショゴスに取り込まれてた。
いや、イデアはともかく何で先生まで取り込まれてんだ!?
しかもなんか気絶してるし!!
「なんか先生、スライムとかダメだったみたい」
「よりによって弱点なのかよ!!」
普段の先生なら俺やウィルを相手しても軽くあしらえるレベルで強いのだが、スライム駄目なのか……。
ちょっとマズいな。
二人が巻き込まれる可能性有るから、迂闊な攻撃は出来ないぞ。
「他の奴らは全部倒したのか?」
「はい! ただ、地面から急に現れた個体に二人が不意を突かれて……」
どうする……。そうだ、もしかしたら……
「レーヴェ、魔力をそのままアイツらにぶつけて吹き飛ばす事は出来るか?」
「え!? で、出来ると思います!!」
魔法では無く、純粋な魔力をぶつけるレーヴェお得意の『
二人から剥がしてしまえば、後は煮るも焼くも好きに出来るからな。
「よし、頼む」
「わかりました!」
レーヴェが両手に魔力を集結させる。収束速度も制御精度も入学当初からは段違いに高いレベルまで上げられている。
まぁ、隣でウィルが少しビビってるのは気付かなかった事にしよう。多分、レーヴェにぶっ飛ばされた事が若干トラウマになってんだろうな……。
「えいっ」
レーヴェは掛け声とともに魔力弾を放つ。
撃ち出された弾は、二人に纏わりつくショゴスだけを的確に吹き飛ばした。
「よし、今だ!!」
吹き飛ばされたショゴスを、ナディアとウィルが残らず消し飛ばしていく。
捕まっていた二人は粘液でベトベトになっている上に少し異臭がするが体に異常は無さそうだ。
「うぅ、すいません。本当は私がしっかりしなきゃいけなかったのに……」
しばらくして気絶から目覚めたマリナ先生はそう漏らす。
「誰にだって苦手な物の一つや二つありますよ」
「ウィルが言うとなんか説得力あるな」
俺とウィルはレーヴェを見つめる。
当の本人は頭の上に?でも浮かべてそうなキョトンとした顔だ。
ウィルにとって自分がトラウマになってるなんて思ってもみないのだろう。
「先生、それよりもこの粘液どうにか出来ません? 気持ち悪くて耐えられないのだけど」
「そうですね、このベタベタを浄化しちゃいましょうか」
二人に纏わり付いてたショゴスの粘液だが、風魔法や水魔法で剥がそうとしても中々剥がれない頑固な汚れで、結局俺達はお手上げだったのだが……
「聖煌術・
先生が短く詠唱を済ませると、彼女を起点として魔力が直径5メートル程のドーム状に広がって行く。
展開されたドーム内にあったショゴスの粘液は、彼女たちに付着しているものだけでなく、壁や床にこべりついているものまで全部消滅していった。
「これで良さそうね」
粘液が取れてようやく気分が戻ったのか、先生は晴れやかな顔をする。
対するイデアは、魔物に捕まったのがよっぽど屈辱だったのか、まだ悔しそうに歯噛みしている。
「そういや何でイデアはあいつらに捕まったんだ? 先生みたいに気絶してた訳でもあるまいし」
「イデア、戦う時に剣しか使ってなかった。それで足を取られた所をそのまま、ばっくん」
あー、そう言う事か。
騎士の家系に生まれたイデアは、騎士であるという事に誇りを持っているからなのか、魔法を極端に毛嫌いしているのだ。
剣術だけでも相当な腕前があるイデアだが、魔法も使えなければ今回みたいなケースは対処しきれないだろう。それこそウィルの様に魔法も剣も使えれば、対処のしようはいくらでもあったのに。
「ダメですよイデア。魔法も使える様にしておかないと」
「せ、先生……」
騎士の先輩である先生に窘められたからか、イデアはしゅんとした表情になる。
まあプライドってのはそうそう簡単に捻じ曲げられる様なものでもないしな。仕方のない部分もあるだろう。
「さて、それじゃあお待たせしましたね。先に進みましょう」
そう言って先生は足早に次の階層を目指して進む。
……あれ? 先に進むのは良いが、先生が率先して攻略するのはルール違反なのでは?
「先生、俺とウィルが先に行きますよ」
「大丈夫です! 私に任せて下さい」
「いや、でも……」
「大丈夫です」
何か、凄い怒ってらっしゃる?
先生もショゴスに捕まったのが堪らなくムカついたのだろうか……
「あ、この事は学園長とかには内緒にしてくださいね? 良いですね?」
しかも凄い剣呑なオーラを放って口止めしてくる。
俺達はビビッて頷く事しか出来なかった。
四層目に辿り着くと、今までの比にならないくらいのショゴスが出てきたが、全て纏めて先生が消し飛ばす。
テケリリ、と言うショゴスの声が断末魔の様に階層内に木霊する。
「……コワイ」
「あぁ。俺もそう思う」
ナディアが先生に恐怖を感じてるの同様、俺も恐怖で頬が引きつっている。
何だこの化物。
先生がショゴスを滅し終わり先に進むと、何やら厳重な扉がある。
が、先生がパワープレイで吹き飛ばす。何でこうも脳筋なのか。
「ナ、ナンダキサマラ!?」
吹き飛ばされた先には、人間の様な形を取っただけの異様な生物が数体存在していた。
おそらくショゴスの上位種であるショゴス・ロードだろう。
と言うか、揃いも揃って禿頭の肥満体系ってどう言う事だよ、芸が無いな。
「人……じゃ無さそうね。人に擬態する魔物なんて初めて見たわ」
先生はそう呟く。
怒りの所為か人型な所為かは分からないが、先程の様に気絶する事は無かった。まぁ多分前者だろうが。
「ワレワレノジャマヲスルナラ―――」
「聖煌術・
喋りかけてたショゴス・ロードを先生が剣を使って消し飛ばす。
攻撃を受けた個体は、跡形も無く消滅した。
「邪魔をするなら……なぁに?」
そして先生はいい笑顔で奴らを威圧する。
目の前の脅威に精神状態がガタガタになったのか、その他のショゴス・ロードは擬態が解けスライム状に戻ってしまった。
「あら? どうしたのかしら?」
プルプルと震えるショゴス・ロード達だったが、その後は無情にもマリナ先生に一体も残らず消滅させられた。
「……このダンジョンに沸く魔物はこいつらが実験に使ってたんだな」
この部屋はショゴス・ロード達の実験室の様な場所だったようで、所々粘液の付着した魔物の死骸なんかが大量に見つかったが、何の実験をしていたかまではイマイチ分からなかった。
「何だか不気味だな。他の魔物を解剖する魔物が居るなんて……」
「そうね。念のため今回の出来事は私が上層部に報告しておくわ。勿論、私が先行していった事実は伏せますけど」
今回の俺達のダンジョン攻略の件は、学園に帰ったあと先生が上に報告して無事に終わった。
もう一つの班は別段変わった事も無かったようだ。
こうして俺達の初の実戦訓練は幕を下ろした。
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