漆黒の刃
一般兵とは比べ物にならない強さの敵兵。
高精度の気配遮断を使用されて居るせいで、相手の位置が掴みにくい。
俺は【世界の眼】を使って、相手の
辛うじてぼんやりとした気配が追えるが、敵の姿が鮮明に映る事は無い。
俺がまだ【世界の眼】を使いこなせていないからだろうか……。
それとも何か他の要因が?
「ちっ、厄介だな」
思考を遮るかの様に迫りくる黒刃も、夜の闇に紛れて視認し辛い。
攻撃の瞬間だけ気配遮断が薄れるので何とか防げてはいるが逆に言えばそれまでだ。
こちらから攻撃を仕掛ける事が出来ない以上、このまま行けば追い込まれるのは確実だろう。
「レーヴェ、ナディア。少し集まってくれ」
二人はその言葉を聞いてすぐに俺の方に駆け寄る。
「【断界障壁】」
二人が来たのを確認し、俺達をドーム状に囲むように地面の壁を張る。
以前の【
こちらも視覚は塞がれるがその点は俺は【世界の眼】で補える。
他二人も俺よりも魔力探知能力が優れているので問題ないだろう。
「奴がこの防壁を突破できる武器を持ってるかどうか……だな」
先程からの攻撃を見るに、奴の戦闘スタイルは短刀を投擲しての
岩の壁を突破出来る程の攻撃力があるかは微妙だが……。
「いえ、来ます!」
一番最初に気付いたのはレーヴェだった。
奴の居るであろう場所から巨大な魔力があふれ、こちらに撃ち出される。
撃ち出された魔法は岩の壁と衝突して、その体積の半分ほどを抉り取った後に消滅した。
「次の攻撃で打ち破られるな。二人とも用意してくれ」
「うん」「はい」
強力な相手だが、こちらは人数で勝っている。
その利点を生かして勝ちを拾いに行くしかないな。
しばらくして再び奴の居場所から魔力反応が出る。
「【
「【
俺はその方向の壁を解除し、空いた空間から二人の魔法が放たれる。
「ぬう……」
魔法の発動を中断され、攻撃を喰らった敵は地面に膝を着く。
威力は高かったが準備に時間が掛かるのが仇になったな。
敵の気配遮断は切れてその存在を明確に認識出来るようになった。
「【
大地の檻が奴を捕らえそのまま魔力を奪いつくす―――いや、
「これは、実体じゃない?」
以前戦ったフサッグ同様、これは魔術を用いた疑似的な分身か……。しかも奴の使っていた物よりも精度が高い。
どうやら【世界の眼】で見た時に気配が鮮明で無かったのは分身だったからか。
あれほどの高火力な魔法を撃てる分身を生み出すなど生半可な技術では出来ない。
とにかく本体を見つけ出さなければ……。
「遅い」
「ぐっ……」
どうやら近くで潜伏していたようだ。
ギリギリで首を飛ばされる事は無かったが、代わりに肩を大きく切り裂かれた。
かなり深めにやられた様で、俺は激痛に顔をしかめる。
「リノ……!!」「リノ君!!」
「良い、気にするな!! それよりも敵が来るぞ!!」
俺は植物系統の回復魔法で応急処置を施す。
これで少なくとも出血は止められた。完全に回復とはいかないまでも、失血で倒れたりすることはないならそれでいい。
念のために解毒もしておこう。もしかしたら武器に毒が塗られてる可能性もあるからな。
レーヴェとナディアは敵の動きに翻弄されながらも、俺の方に来させまいと上手く退けているようだ。
「仕方ない……【
素早く動き回り的確に攻撃を仕掛けて来る相手に、ナディアはこのままでは不味いと判断したようだ。
出来れば隠しておきたかった切り札の一つだったが、こうも戦闘経験の差があるとそうも言って居られない。
『
頭の中に機械音声の様な耳障りな音が聞こえる。
これでナディアは一時的にヴァテァの権能を使えるはず……だが……
(何だ? 同期が浅い……?)
ナディアも同じことを感じているのだろう。彼女にしては珍しく、少し歯噛みした様な表情を浮かべた。
本来出せる出力の四割も出せているかどうかと言う微妙な感じだ。
だが今更止める訳には行かない。
ナディアは全身に風を纏って相手を捕らえようと追いかける。
出せた力は三割弱とは言え仮にも神の力の一端だ。
流石と言うべきか、先程まで翻弄されるだけだった相手に食らいつくことが出来たようだ。
「その力は一体……」
先程までの攻勢が一転、突如として自分の速度に追いついたナディアに相手も驚いている。
ナディアに続けるように俺も【世界の眼】を全力で行使する。
次第に目から血が滲んで来たが、そんな事を気にしている余裕はない。
ナディアの風の刃の隙間を埋める様に、俺の大地の槍と【
敵は俺達の攻撃を辛うじて避けられているが、風の刃が肩を薙ぎ、大地の槍が脚を掠め、幼木の矢が腕を裂く。
「今だ!!」
「【
俺達の攻撃を避けるのに集中し過ぎた所為で、レーヴェの存在に気付くのが遅れたようだ。
放たれた高速の魔弾が敵の右半身を確実に捕らえた。
「ぐううっ……」
敵は錐揉みするように地面に落ちて行く。魔弾は体を穿つ事は無くとも、脳に強い衝撃を与えたようだ。
だが敵はそこから一転し体勢を整えると、一目散に逃亡を図る。
ふらついてはいるものの、まだ倒しきるには至らなかったか。
「待ちやがれ―――っつぅ……!!」
追いかけようとするが、途端に目に激痛が走る。
目を開けるのがこんな程痛みは大きくなっていく。
「私が追いかけ……くぅ……」
ナディアも【
だが出力が弱かったお陰か、少しだけなら自分で動く事も出来そうだ。
俺達は一ヵ所に纏まり、俺の【断界障壁】の中で回復を試みる。
レーヴェはまだまだ動ける様で、俺達の回復を率先して手伝ってくれた。
(これ……一人じゃマジでキツイな……)
三人中二人が満身創痍になった挙句に仕留め損ねた。
舐めていた訳では無いが、やはり実戦と訓練では天と地ほどの差がある。
思考の単純な魔物を百度討伐するより、複雑な思考を有し実戦を積んだ敵一人の方が苦戦している。
(でもまぁ、死ななかっただけ儲けものだな)
だが勝てない程では無かった、それは確かだ。
見よう見まねで行使した魔法もたった一度で物に出来た。
死と隣り合わせではあるが、ここを乗り切れば俺達は確実に一段上のステージに上がれる。
そう考えて俺は思考を切り替える。
負傷した相手はもう探知圏外に出てしまった。
あの程度なら奴も戦線に復帰してくるだろう。
気を付けるべきは分身とあの速度。
とにかくこちらは数の有利を生かして畳みかける方が良いだろう。
「よし、行こう」
傷も回復し魔力もある程度戻って来た所で、俺達は再び行動を開始した。
その足元で、着々と奴が目覚めようとしている事に気が付かないまま。
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