制限の理由
「フサッグを倒したんだって? おめでとう。取り敢えず邪魔者が一人消えたね」
数日後、俺はまたナイアルラトホテップと会って情報交換をしていた。
フサッグの事も、元はと言えば彼から提供された情報だった。
彼なら他にも有力な情報を持っているかもしれない。
いや、隠してるだけで絶対に持ってるのだろうが。
それにしても―――
「何でお前、女の姿になってるんだ?」
「おや、不満かい?」
いつもは紳士然とした男性の姿で居たのに、何故今日は美人な女性の姿に化けてるんだ?
「いやー最近、君が女の子達とこの喫茶店に来たのを見かけてね? 中々君も隅に置けないじゃ無いか、三人もの女の子を侍らせちゃって」
「ばっ、違うからな!? と言うかお前見てたのかよ」
目の前の彼……いや彼女? もうどうだって良いよ。
以前俺が三人と一緒に街を回った時に、この喫茶店に寄ったのを見ていたらしい。
全く、良い性格してるな。
「と言うか、いい加減愛称みたいなの付けておきたいな」
「ボクにかい?」
「そうだよ」
一々ナイアルラトホテップなんて長い名前を呼ぶのも面倒だ。
かと言って捻りを加えるのも逆に解り辛い。
こう言うのは略すのが手っ取り早いだろう。
「ナイルってのはどうだ? 解り易いし、良いと思うんだけど」
俺がナイルと呼んだ瞬間に、女性の姿だったナイルの身体は徐々に変化していき、爽やかな青年の姿で落ち着いて行った。
「ハハハ、驚いたな! まさか、君の付けた愛称のイメージに変質するなんてね」
「え? つまりナイルの今の姿は、俺が思ってるイメージが反映された姿なのか?」
そう問いかけると、彼は頷く。
「そうだね。君の思うナイル、と言う言葉の響きと、今までボクと接して来たイメージに最も近い姿が今のボクの姿って事だね」
へ~。そうなのか。よく分からん。
まぁこの姿の変質は彼に元となる顔? 姿? が無いから起きた現象なんだろうな。
「ちなみに姿を変えたりってのは今まで通り出来るのか?」
「一応出来るよ」
そう言うと彼は、先程の女性の姿に戻る。
あくまで、俺と対面する時に最も楽な姿が、先程の青年の姿になったそうだ。
「さて、面白い事をしてくれたお礼だ。僕からも隠してた情報を教えてあげよう」
今の出来事が面白いのか……。
その感覚はよく分からないが、情報は欲しいな。素直に受け取っておこう。
「ボクはクトゥグァやそれに類する存在を感知出来る……これはもう知ってるね?」
「あぁ」
「実はやろうと思えば他の教団の信徒とかも感知したり、何なら殺したりも出来るんだけど……」
彼はそれをやってない。やれば簡単に奴の復活を阻止出来るのに、だ。という事は
「何かやれない事情でもあるのか?」
「鋭いね。ボクやあいつの様な異世界の神性は、違う世界に干渉する際にその
「世界から、抵抗?」
「あぁ。だが今のボクのスケールだと特に大きな抵抗は受けない。精々が人から認識されにくくなる程度かな。最も、これはボクの能力の関係もあるけどね」
ナイルの今のスケールだと、人に顔を認識され辛くなったり、存在を感知されにくいと言った程度だそうだ。
あんまり抵抗されてる、って感じはしないな。
「だが、かつて奴がこの世界に降り立った時のスケールだと、面倒な事になるんだ。例えば、あの山火事は奴がやった事じゃ無く、他の、この世界の誰かが起こした出来事……って感じに星の記録が書き換えられるんだ」
「ふむふむ……って、それ結構重要な事言って無いか?」
俺の驚いた顔に、彼は満足そうだ。
でも、確かに重要そうな内容だが、それが力を使えない事に直結するのだろうか?
「その記録の書き換えはすぐ起こるのか?」
「いや。数十、数百年単位かな。と言っても、これは別の世界での指標だから、この世界に当てはまるかは分からないけど」
結構ゆっくりと書き換えられていくんだな。
「で、問題はここからだ。ボク達のスケールが大きくなればなるほど、この世界から受ける抵抗は強まり、世界が抵抗すればするほど、次第に世界は歪んでいき、その歪みは違った形で現れてしまうんだ」
世界の、歪み……。
「だからボクは出来るだけ、この世界を歪ませない様に力をセーブするしかない、って感じかな」
「解り辛いな……もうちょっと噛み砕いて説明できないか?」
「要は、ボクが全力を出すほど、この世界に新たな災厄を招きかねないって事だよ」
そうなのか。
「結構不便を強いられるんだな」
「まぁ、やろうと思えば出来ない事は無いけどね。ボクへの害は殆ど無い訳だから」
そう言ってナイルは紅茶に口を付ける。
つまり、今の彼は世界に影響を与え過ぎない範囲でしか力を使っていないのか。
本気を出したらそんな事になるのかちょっと気になる気もする。
「あ、そうだ。そう言えば最近、フサッグ以外にも奴の眷属っぽい反応を感じ始めたんだよね」
「それは他の信徒達の反応じゃなくて?」
「いや、違うね。なんだろな、少なくともこの世界の存在じゃないっぽいから、もしかしたら別の神格なのかな? それにしては少しスケールが足りないような……」
ナイルは独り言みたく喋る。
てっきり残りは信徒だけしか居ないと思ってたから、奴以外にも厄介な存在が居ると言うのはちょっと面倒くさいな。
「まぁ取り敢えず残ってる信徒以外にも敵がいるかも、って感じで考えておいて」
「あぁ、わかった」
その後は少し他愛もない会話をして、彼と別れた。
以前の忠告は少し軽視していた部分もあったが、今回のはしっかりと覚えておこう。
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