やっとゆっくりと出来るはずだったお風呂が台無しだと思った颯馬は、小さく溜息を漏らす。


「さて、ここなら誰も話を聞かないわね。あなたの妹は上にいることだし……。さぁ、何から訊きたいかしら?」


「そうだな……」


 颯馬は少し前の事を思い出す。




     ×     ×     ×




 午後六時四十分頃————


「ただいまー」


 颯馬は、制服に着替え直し、歩いて帰宅した。


 すぐに洗面所へと向かい、ワイシャツを脱ぎ、綺麗なタオルを手に取る。濡れた髪を吹きながらすぐにリビングへと向かった。


「お帰り……」


 と、ソファーの上で希は、横になりながら見たくもないニュース番組をぼーっと見ていた。


「お、おう……」


 颯馬は、小さく返事を返し、冷蔵庫の中からお茶を取り出し、コップに注いだ。


「あ、そこに買い物しておいた食材を置いてるから……」


「おう。ありがとうな」


「うん……」


 のぞみはテレビを消し、起き上がると、そのままリビングを出ようとするが、


「あ、そうだ……。お兄ちゃん、ご飯は何時ごろ?」


「そうだな……。今から作るとなると……三十分前後くらいだな」


「そう……」


 希は、そのままリビングを後にした。


 一人取り残された颯馬は、黙ったまま自分の椅子に座った。


「はぁ……」


 小さなため息が漏れる。


(それにしてもあの猫がいねぇーな……。希の部屋か? まぁ、自分が魔法少女に選ばれたからって家族には言いたくないよな。そう言えば、クロエが言っていたことも気にはなるが……。一番問題なのは、あの……女の……ほうだよな……)


 颯馬は、さっきまでの戦いを再び思い出す。


(水系統の魔法か……)


 戦った少女の魔法を思い出す。


 自分の武器である機動力と素早さが無かったら、確実に仕留められていたと自覚していた。


 男は、女よりも魔法の適性値が低い事をクロエから聞かされており、それに加え、もう一つのリスクも聞かされていた。


(そもそもこんなご時世に魔法とかふざけた非科学的ものを誰も信じはしないだろうな。ま、俺に魔法の適性があったのはまだ、分かってねぇーが……)


 颯馬は台所に立ち、希が買ってきた食材を片付けながら、その一方で二人分の夕食の準備を始める。


(大体、悪魔って、アレよりクロエみたいな得体のしれない生き物の方じゃないのか?)


 颯馬は料理をしながら開き直る。


 何かしらの事情を抱えており、それに加え、魔法について誰よりも詳しい所が怪しい。


(それにクロエの野郎……。俺に話があるって言ったのに、なんで、まだ、姿を現さない。いつ、話すんだよ……)


 颯馬は、半分、呆れていた。


 料理は、淡々と進んでいき、炊飯器のスイッチも希が設定していた時間帯に音が鳴るようにしてある。


 颯馬は、心の中でイライラしながら料理の半分を終えた。




     ×     ×     ×




「さて、話をする前に一つ、私からお願いしてもいいかしら?」


「なんだ?」


 クロエが颯馬に、自分の考えを伝える。


「今日から私もこの家に住むことにしたわ」


「はぁ?」


 颯馬は唖然とする。


「だってそうじゃない。あなたが上にいる奴を制御できるとでも? それにまだ、あなたの魔法は発展途上。ここで脱落されたら私が困るのよ」


 クロエは颯馬の使い魔ではあるが、この家に居候しておらず、いつもどこかへふらっと姿を消しては、いつの間にか、隣にいる存在だ。


「くっ……」


 颯馬は何も言い返せない。


「もし、あなたの妹が本当に……魔法少女になるとなれば、覚悟しておいた方がいいわ」


「何を……?」


「この世の始まり……」


「『この世の始まり』だと……」


 颯馬は息を呑む。


「そうよ。じゃあ、ここで問題。『魔法の原点とは? 魔法は何から生まれた?』」


 クロエは颯馬に質問する。


「魔法の原点……。クロがもともといた世界ではその問いにたどり着いた奴は多かったのか?」


 颯馬は考えながらクロエに訊く。


「ええ……。この質問をしたらほとんどは答えられたわ。でも、これにはそれぞれ答えが存在する。まぁ、簡単に略すれば、答えは一つではないって事ね」


「答えは一つじゃない……。なんだか、国語の問題みたいだな」


 颯馬はそれを聞いて、真剣に考えだす。


 確かにクロエが自分に魔法の基礎を一から叩き込まれたとは言え、まだ、クロエを越えていないのは確かだ。


「全ての魔法の原点は、一つの魔法から産まれた。まぁ、まだ、俺には分からないけどな……」


 颯馬はそう言った。


「ふっ……」


 クロエは小笑いする。


「なんだよ……」


「いいや……。よくもずいぶん昔の話をよく覚えていたもんだなってね……」


「ま、嫌っていう程、魔法に関しては基礎から叩き込まれたからな。なんとなくだ。なんとなく……」


「なんとなくか……。まぁ、よい。確かに全ての魔法は一つの魔法から始まった。それは真実ではあるが、真実ではないって事はまだ、話していなかったわね」


「ああ、初耳だ」


「魔法の原書。そのたった一つから生まれた魔法は、多くの魔法使いに分け渡され、それから今、現代の魔法へと生まれ変わった。それじゃあ、たった一つの魔法を生み出すためにはどうしたのかしら?」


「それって最初の魔法は誰かが何かしたから生まれたって事なのか?」


「そうね。でも、魔法というのはそう簡単に出来るものでもなければ、適性だってある。これは、私でも未だに分かっていない事よ」


「お前が……まだ、分からないねぇ……」


 颯馬が苦笑いをする。


「それで『この世の始まり』が、それに繋がるんだ?」


「つまりは、世界の終焉しゅうえん。世界が終わりを始めるって事よ……」


「はぁっ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暗闇の魔法使い ユグラシド @yugurasido

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ