Ⅲ
「なんだ、
颯馬が椿の方を見る。
彼の名は、
颯馬よりも身長が高く、男子にしては少し長い髪を髪留めで一つに纏めており、上下ともに黒の学ランを着ていた。
「お前こそ、毎日、この時間帯の登校だろ? って、言っても家があそこだったら誰も文句言えねぇーしな……」
「いやー、家が近いとゆっくり登校したくなるし、ギリギリまで眠れるからいいんだよ」
椿は照れくさそうに頭を掻く。
彼の家は
「でもなぁ、家が近いんだからもう少し早くきたらどうなんだ?」
「僕もそうしたいところなんだけど、家が近いと思ったらね……。この意味、分かるでしょ?」
「まあ、分からんでもないが……」
二人は階段を上り、二階にある二年二組の教室を目指す。
男子トイレ、女子トイレのすぐ隣が二組の教室であり、廊下では自分のロッカーから朝課外に必要な参考書を用意しようと急いでいる生徒でいっぱいだった。
「げっ……。そういや、朝って英語だったのかよ……」
「そうだね。これは早く準備しないと、谷口先生だからね……」
と、椿はとぼけた風に言う。
英語の谷口は、この学校の英語担当教師の中で、厳しいと有名であり、特に毎日行われる小テストは、皆、頭を悩まされている。
小テストには、単語、文法、穴埋め、の三つが主であり、それに加え、授業でやる長文の翻訳の宿題などがあったりする。
「でも、朝は確か……」
椿が何か言おうとした。
「ん? 何かあるのか?」
「あ、いや……。そう言えば、今日は……」
椿は苦笑いをして、バツが悪そうに後頭部を掻く。
「えー、今日は担当の谷口先生が休みで、朝課外は中止となりました……」
と、代理の教師が二組の教室に入ってきて、そう告げた。
「「「ええ~‼」」」
クラス中に響き渡るブーイングの声。必死になって、授業の用意をした生徒たちは、朝からやる気をなくす一方である。
颯馬はそれを聞きながら、苦笑いをした。
この授業が始まる前に椿から、今日一日、谷口先生はいないと聞かされていたのだ。
朝から衝撃の事実を聞かされたクラスメイト達は、朝課外の時間、何をするかと思えば、一部の生徒に関して、他の教科でやっていない課題を近くで終えている生徒から借りて、必死に写している模様だ。
(ったく……。課題をやってきてない奴、多すぎだろ……)
颯馬は、教室の隅っこにある自分の席で後ろから前にいる生徒たちを見ながら溜息を漏らした。
(それにしても、ここ最近は……!)
颯馬は、どこからか伝わってくる何かを敏感に捉え、窓の外を見る。
(おいおい、これって……)
颯馬以外にも、クラスの中に彼の行動を把握した生徒が何人かいた。
朝課外が終了まで、約二十分前後。監督役の教師もいつの間にか、教室から姿を消している。
すぐに、颯馬は、そのクラスメイトとアイコンタクトを取る。
すると、一人の女子生徒が立ち上がって、口を開いた。
「はーい、ちゅうもーく!」
クラスメイト達は、声を上げた少女の方へ視線を奪われていく。
(今だ!)
颯馬は、その一瞬の隙を見逃さず、素早く二階、いや、窓側からになると三階から飛び降りる。
「クロ!」
颯馬は、飛び降りる僅かな時間で叫ぶ。
黒い影が、上空から舞い降り、颯馬の視線に合わせる。
「気づいたか?」
「ああ、それにしても今日に限って久々の大きな魔力だな」
クロエは、颯馬の左肩に乗り、颯馬は着地と同時に走り出した。
× × ×
「のーぞーみー‼ きーてるの? 希ってば⁉」
天海中学校の中央校舎の二階の二年一組に在籍している希は、窓の外をぼーっと見ていた。
「え、あ、うん……。何だっけ?」
希は、話を全く聞いていなく、聞き返した。
「だから、もうすぐ、先生が来るんだよ? 準備、しなくてもいいの?」
彼女の友人が自前の本を持って、繰り返し言った。
「え? もう、そんな時間なの? あ、そうか……。そう言えば、今日は朝から読書の時間だっけ……」
希は、外から伝わってくる気に当てられて、時間など気にもしていなかった。
「さっきからどうしたの? いつもこの時間は、遅刻しそうで教室に入ってきて、バタバタしているのにさ。今日に限って、遅刻しそうだったのは毎週同じだったけど……今日の希は、朝から変だよ?」
友人は、希を心配そうに見つめる。
「うんん。何もないよ。ちょっと、考え事をしていただけだから……。大丈夫。心配かけて、ごめんね」
希は、友人に謝る。
「ねぇ……」
「何?」
「何か、外の方、聞こえない?」
「え? いやー、鳥の音か、車の音なら聞こえるけど……」
「ふーん」
「それだけ?」
「うん……」
希は、再び窓の外を見る。
(いや、どうみても叫び声らしき大きな音だったんだけどな……。気のせいだったのかな……?)
上を見上げると、空にはこの後、天気は下り坂になりそうな怪しげな雲が西から少しずつ近づいていた。
× × ×
「ったく……。朝っぱらから忙しい月曜日だな。おい!」
颯馬は、制服から黒い着物に着替えており、魔力がある方へと向かっていた。
「そんなに急ぎたいなら魔法でも使っていけばいいじゃない」
クロエは羽を広げて、颯馬の上を飛んでいる。
「アホ……。こんな所で魔力を消費したら学校まで急いで帰れねぇーだろうが……」
颯馬は、溜息を漏らす。
「それにこの力もいつまで使えるか。わからねぇーしな……」
自分の手を握ったり、広げたりする。
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