第2章  エデンの園

 空が泣いている。


 天海町全域に強い雨が夕方から降り続いている。


 雲が灰色から真っ黒に染まり、天海町を暗闇の中へと包み込む。


 時刻は午後八時半。この街の住人のほとんどが家で過ごしている。所々、電気の明かりが消えてゆく所もあり、雨の音しか聞こえてこない。


 家の中で暖かいシャワーを浴び、髪の上に泡立てたシャンプーを洗い流す。戦いで出来た傷にお湯が沁み、少し痛みが走る。


「っ……」


 タオルで石鹸を擦り、泡立て、体の隅々まで擦った後、再びシャワーを浴び終えると、湯船にゆっくりと浸かった。


「はぁ……」


 入ると同時に大きな声が出る。一番風呂じゃなくてもやはり声が漏れてしまうのは、いつもの事だ。


(それにしても疲れた……)


 颯馬は、眠そうな様子をしながらも、濡れた前髪を上げ、ゆっくりと寛ぐ。


(あの野郎は一体……。確かに俺以外にも契約している魔法使いや魔法少女は聞いたことがあるが……。まさか、この街で会うとは……。それに最もヤバいのは……)


 颯馬は天井を見上げる。


「それにしてもよくもまぁ、そんな傷を私に見せてくれるわね」


 風呂場内に他の誰かの声が聞こえた。


「うぉおお‼」


 とっさにタオルを手に取り、下半身の方に巻きつける。


「なんだ? そんなものを見ても何も減りはしないわよ」


 と、風呂場の窓に取り付けてある棚の上にいたクロエがそう言った。


「うるせぇ。いるならいるって先に言えよな……」


「あら、別にいいじゃない。問題ないでしょ?」


「問題大ありだ‼」


 颯馬はクロエに怒鳴る。


「ま、そんな事はどうでもいいんだけど……」


 と、クロエはさっきまで颯馬が体を洗うために座っていた小さな椅子に飛び移る。


「…………」

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