Ⅺ
颯馬は、すぐに距離を詰めるが、黒猫は少女の肩に乗り、颯馬の攻撃を軽々と避け、颯馬よりも速いスピードでいつの間にか後ろを取られていた。
「何っ⁉」
颯馬もそれを見て、驚く。
「次会う時は、もう少し強くなっていると楽しみだな……」
そう言い残して、姿を消した。
一人取り残された颯馬は、刀を鞘に納め、その場に立ち竦んだままになる。
(あれは……あの猫があの子の使い魔なのか?)
颯馬は空を見上げた。
(この街で何か起こるとでも言うのかよ……)
雨は颯馬を濡らす。
一人、雨の中入る颯馬は、どこか悲しげな後姿が見えた。
「…………」
遠くの建物の屋上で見ていたクロエは、さっきから黙ったまま、颯馬の方を見ていた。
雨が強くなり、和正は自分のライフルをケースの中にしまう。
「それで……最後に現れた『アレ』は君と同類なのか?」
和正はライフルケースを背負い、先に帰る準備をする。
「そうと言ったら、そうね……。でも、違う」
「分かった。これ以上は訊かない事にしておこう」
「ありがとう」
和正は、クロエの言葉に何かを察した。声のトーンがいつもより少し低い。
「自転車は彼の家に戻しておいて、俺は先に帰らせてもらう」
そう言い残して、和正は屋上から姿を消した。
クロエは、すぐに颯馬の方へと雨の中、飛んでいく。
「もしもし……」
和正はエレベーター内で誰かに電話をしていた。
『はい……』
電話の向こうから返事が聞こえる。
「話はメールで送った通りだ。添付ファイルの分析もしっかりとしておいてくれ……」
『はいはい。やっておくよー』
と、やる気のなさそうな声で返事をする。
『それよりもこれを見て和正君はどう見るの?』
「俺にはどう答えを出せばいいのかは分からない。ただ……一つだけ確信があるとするのならば、今まで以上の何かが動き出す。何かは分からないが……」
和正は、そう述べた。
『そう。じゃあ、出来る次第、連絡入れとくね』
「ああ、頼む」
と、通話ボタンを押し、相手との電話を切った。
「さて、自転車を戻しに行くとしよう」
エレベーターを降り、止めていた自転車の鍵を開け、颯馬の家へと向かった。
一人、濡れたまま雨に打たれる颯馬は、その場を動かない。
遠くの建物から飛んできたクロエは、颯馬の左肩に着地した。
「なぁ、クロ」
「何?」
「後で分かる事……説明してくれるか?」
「…………ええ」
クロエは、小さく頷いた。
雨の中、黒い着物を着た少年は、雨に溶け込み、次第に姿を消した。
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