颯馬は、すぐに距離を詰めるが、黒猫は少女の肩に乗り、颯馬の攻撃を軽々と避け、颯馬よりも速いスピードでいつの間にか後ろを取られていた。


「何っ⁉」


 颯馬もそれを見て、驚く。


「次会う時は、もう少し強くなっていると楽しみだな……」


 そう言い残して、姿を消した。


 一人取り残された颯馬は、刀を鞘に納め、その場に立ち竦んだままになる。


(あれは……あの猫があの子の使い魔なのか?)


 颯馬は空を見上げた。


(この街で何か起こるとでも言うのかよ……)


 雨は颯馬を濡らす。


 一人、雨の中入る颯馬は、どこか悲しげな後姿が見えた。




「…………」


 遠くの建物の屋上で見ていたクロエは、さっきから黙ったまま、颯馬の方を見ていた。


 雨が強くなり、和正は自分のライフルをケースの中にしまう。


「それで……最後に現れた『アレ』は君と同類なのか?」


 和正はライフルケースを背負い、先に帰る準備をする。


「そうと言ったら、そうね……。でも、違う」


「分かった。これ以上は訊かない事にしておこう」


「ありがとう」


 和正は、クロエの言葉に何かを察した。声のトーンがいつもより少し低い。


「自転車は彼の家に戻しておいて、俺は先に帰らせてもらう」


 そう言い残して、和正は屋上から姿を消した。


 クロエは、すぐに颯馬の方へと雨の中、飛んでいく。




「もしもし……」


 和正はエレベーター内で誰かに電話をしていた。


『はい……』


 電話の向こうから返事が聞こえる。


「話はメールで送った通りだ。添付ファイルの分析もしっかりとしておいてくれ……」


『はいはい。やっておくよー』


 と、やる気のなさそうな声で返事をする。


『それよりもこれを見て和正君はどう見るの?』


「俺にはどう答えを出せばいいのかは分からない。ただ……一つだけ確信があるとするのならば、今まで以上の何かが動き出す。何かは分からないが……」


 和正は、そう述べた。


『そう。じゃあ、出来る次第、連絡入れとくね』


「ああ、頼む」


 と、通話ボタンを押し、相手との電話を切った。


「さて、自転車を戻しに行くとしよう」


 エレベーターを降り、止めていた自転車の鍵を開け、颯馬の家へと向かった。




 一人、濡れたまま雨に打たれる颯馬は、その場を動かない。


 遠くの建物から飛んできたクロエは、颯馬の左肩に着地した。


「なぁ、クロ」


「何?」


「後で分かる事……説明してくれるか?」


「…………ええ」


 クロエは、小さく頷いた。


 雨の中、黒い着物を着た少年は、雨に溶け込み、次第に姿を消した。

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