水月すいげつ!」


 少女はさっきも使った水の魔法を颯馬に向けて攻撃する。


(水の魔法少女か……)


 颯馬は軽々と刀で受け止める。


「へぇ、この技を受け止めるなんて。君、一体何者?」


 少女は本気で颯馬を殺しにかかっている。顔は獲物を捕らえたと、笑顔で戦いを心の底から楽しんでいる。


「さーな」


 颯馬は少女を吹き飛ばす。


「おい、そこのお前‼」


 颯馬は、希を見ずに呼びかける。


「あ、え、あ、はい⁉」


 唐突に呼ばれて、希はびっくりする。


「ここから立ち去ってくんねーか? 邪魔だからよ……」


 颯馬は、妹に対してきつい言葉で言ってくる。


「は、はい……」


 希は、震えた足を立ち上がらせて、体がフラフラとなりながらもそこから遠ざかろうとする。


「逃がすか‼」


 少女は、逃げようとする希を追いかける。


「おっと……。ここから先は行かせねぇ!」


 颯馬が少女の前に立ちはだかる。


「くっ……」


 少女は、悔しそうな顔を見せる。


 面倒な相手が目の前にいて、標的が遠ざかっていく。あと一歩で手が届くのに届かない。


『颯馬、俺はいつ撃てばいい?』


 頭の中に和正の声が聞こえてくる。クロエを伝って、話しかけてきているのだ。


「やめろ。狙いだけ定めて、彼女を撃つな。俺がやる」


『できるのか?』


「やるさ。俺だって、そこまで弱くねぇ」


『分かった。今回は君の言う通りにしよう。ただ、覚えておくといい……』


「何がだ?」


獅子ししは獲物を狩る時、油断してはならない。油断していると獅子は獲物に狩られてしまう』


 和正は颯馬に助言をする。


「面白い話、どーも」


 颯馬は、少女に斬りかかる。


 少女もまた、颯馬の攻撃を槍でしっかりと受け止め、水の魔法の応用で再び颯馬の頬に傷を与える。


「一体、テメーは誰だ⁉」


 颯馬は戦いの中、少女に訊く。


「何が目的だ⁉ 話せ⁉」


 二人は、宙で刀と槍を交じわらせ、少女が放つ魔法にも颯馬はしっかりと自分の魔法で対処する。それを見た少女が、少し驚く。


「へぇー、面白い魔法を持ってるじゃん。君、誰と契約したの?」


「……」


 颯馬は黙ったまま、少女を睨みつける。


「ま、いいや。流石にこれ以上、長居していると、面倒に巻き込まれそうだから私は、ここから退場させてもらうよ」


 少女は言った。


「俺が逃がすとでも思うか?」


「さぁ、それはどうかな? 魔法の適正では男よりも女の方が高いって知っているよね? それに君には『あれ』があるんでしょ? 私を追わない方が身のためだよ」


 少女は余裕の表情を見せながら、ことごとく颯馬の痛い所を突いてくる。


「確かにな。でも、速さではどうか……な⁉」


 颯馬は一瞬にして、少女の目の前から姿を消した。


「なっ⁉」


 少女は驚き、槍を構えて辺りを見渡した。


「そんな目で俺の速さについて来れるのか?」


 颯馬は余裕そうな顔をして槍の先端の上に乗っていた。


 さっきとは逆だ。少女は、槍を振り払い。颯馬は軽く飛び跳ね、少女との距離を取る。


 少女は悔しそうな顔をして、颯馬を見る。魔法では上なのに、速さになるとこんなにも実力をつけられてしまうとは思ってなかった。


「どうする? まだ続けるか?」


 颯馬は少女に問いかける。


「まだまだよ……」


 少女は片手で槍を回す。


(何なの? 今の速さ……。見た事ないんだけど……。この人の契約相手って誰?)


 少女は颯馬のパートナーが誰なのか考え始める。


『退け、明日香』


 少女の頭の中に誰かが呼びかける。


「なんで? ここで倒さないと後々、厄介になるよ!」


『いいから退け! お前だけで倒せる相手じゃない。分が悪すぎる。いつも言っているだろ? 状況に応じて、戦えと……。魔法少女にもなってそれも分からないのか? さっきの彼の速さにお前は付いていけなかっただろ? 今、魔法の使い方がお前の方が上だとしても機動力に分があるのは彼だ。だから退け……』


「い・や・よ!」


『何っ⁉』


「だって、それじゃあ、私があいつより弱いって事じゃん。そんなの認めたくないし……」


 少女は捻くれる。


『お前って言う奴は……』


 話しかけてくる人物は、少女の回答に対して呆れ果てる。


「そんじゃあ、いくよ!」


 少女は槍を構えると、急に静かになる。


「鳴け、水————」




「そこまでだ!」




 少女が魔法を唱えようとしたところで、二人の間に横入りしてきた者がいた。


「ちょっ!」


 少女は動きを止め、現れた人物を見て、目を大きくする。


「明日香。これ以上の戦いを止めろと言ったはずだ」


 少女の目の前に現れたのは、黒猫だった。


「なんで、止めるのよ! あいつさえ倒せば、目的が……」


「駄目だ!」


 黒猫は、少女に威圧と恐怖を与える。


「っ……」


 少女は黙ったまま、その後、何も反論しなくなった。


「いいな?」


「はい……」


 槍を下ろし、素直に返事をする少女。


 それを見た黒猫は、颯馬の方を振り返る。


「さて、我々はここから退散させてもらうとしよう」


「待て!」

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