Ⅸ
そこは颯馬の住む家の周辺だ。
「おい。これは非常に不味いんじゃないのか?」
「ええ……」
二人は息を呑んだ。
× × ×
「な、何なの?」
希は、後ろを振り返ったまま腰が抜け、地面に尻もちをつく。
「ギャァアアアアアアアア‼」
目の前には見た事もない大きな黒い化け物が現れた。大きな口を開け、威圧感が凄すぎる。
「あれは悪魔だよ」
と、白い猫が隣に座っていた。
「あ、悪魔……?」
希の震えた両腕を握力の低下した左右の手で交差して握る。目は挙動不審で、絶望寸前まで来ている。
「この世の理に存在する魔物。まぁ、他には魔女とかもいるけどね」
「ま、魔女……」
希の頭は、何一つも理解できない。突然言われても、処理能力まで低下した頭をスッキリさせるには、一度、冷静にさせる必要がある。
「さて、要はこの危険な状況をどうするかが問題だね」
「で、できるの……?」
希は、猫に訊く。
「できるよ。君が僕と契約を結べばの話だけどね……」
「契約?」
呼吸がうまくできず、心臓の巡りが悪くなっていく。
「そうさ。契約さえすれば、君は助かる。何もせずに死なずに済むのさ」
「ほ……本当なの?」
「うん」
猫は自信満々に返事をした。
「さあ、どうする? するか。しないか。生きるか。死ぬか。選択肢は二つに一つだよ」
猫は、希に選択を迫る。
もう、すぐそこには化け物が希に襲い掛かろうとしている。時間が無い。死ぬ。でも、死ぬのは嫌だ。死にたくない。死にたくない。
「その必要はないよ!」
「え?」
どこからか聞こえてくる誰かの声。今の話を誰かに聞かれていたのか。いや、周りには誰もいなかったはず。
希の心拍数が徐々に上がっていく。胸を押さえて、必死に下げようとしても無意識にそうなってしまう。
「
ザクッ‼
と、叫び声と共に化け物(悪魔)の体が縦に真っ二つに斬られ、姿を消した。斬られた間から一人の少女が、希の目の前に現れた。
身長は希より少し高いくらいのロングヘアの少女。頭の方には髪を少し留め、水色、白、青の三色が混ざった透き通った服装。右手には槍のよう長いもの。まさか、この少女がさっきの化け物を倒したんのと、震えながら言葉を口に出せない希は、ゆっくりと呼吸を戻し、落ち着きを自分で制御し始める。
「ふぅ……。案外、手ごたえのない奴だったね」
少女は、槍をくるくると回し、地面に立てる。
「あ、あなたは……?」
恐る恐る質問をする。
「私? 私は通りすがりの魔法少女さ」
「魔法少女?」
「そう。魔法少女」
魔法少女と名乗る少女は、ちらっと猫の方を見る。
(こいつが元凶の……)
少女は、猫を見て、相棒が言っていた事を思い出す。
「ねぇ、その猫、私に渡してくれない?」
少女は、手を差し伸べる。
「なんで……?」
「殺すからよ」
「こ、殺す……?」
少女は、希にそう言った。
猫を抱え込み、震えた手で少女に渡すそぶりを見せずにギュッと握る。
「もう一度言うよ。渡してくれない?」
少女は希に今度は強めに言う。
だが、希は渡そうとしない。ただ、少女の方をジッと見る。
「そう。渡す気が無いのね……」
少女は槍を希に構え、殺す覚悟で睨みつける。
「じゃあ、死んでくれる?」
少女は希に向かって槍を振り放った。
希はギュッと目を瞑り、死がよぎる。
(誰か……助けて‼)
「そこまでだ!」
二人の間に、誰かが横入りしてきた。
少女の攻撃を黒い刀で受け止め、軽々と捌ききる。少女は、後ろに跳び、介入してきた人物と一定の距離を保つ。
「誰⁉」
少女は、自分の邪魔をしてきた人物に敵意を向ける。
「————ったく。来てみれば、面倒な事になってるじゃねぇーか。クロ。そっちの方は大丈夫か? 訊いているのか?」
その人物は少女の事を無視したまま、遠くにいる誰かに話しかけている。
『あ、ああ……。大丈夫だ……』
「なんかおかしいぞ。何かあったのか?」
『颯馬。落ち着いてよく聞け。お前の妹が抱えているその猫は、普通の猫じゃない』
「何⁉」
『そこの魔法少女が狙う理由はなんとなく分かっている。その猫はお前の妹を魔法少女にしようとしている』
「どういうことだ?」
『話は後だ。まずは目の前の敵を撃て』
「ちっ……」
颯馬は舌打ちをして、少女の方を見た。
妹の希は、目の前に現れたのが、自分の兄だと気づいていないらしい。
颯馬は、髪の色を黒から茶髪に変え、服装も見慣れない黒い着物だ。
「誰?」
希は助けてくれた颯馬に訊ねる。
「ただの通りすがりだ」
颯馬は、そう言い残して少女に
「へー、私以外にも魔法が使える奴がいたんだ。どこの誰だか知らないけど……邪魔をするなら容赦しないよ」
少女も颯馬に向かって攻撃を仕掛けてくる。
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