「そう言えば、お前の母親は研究者だったよな?」


 和正、さっき南校舎の一階に設置されている自動販売機で買ってきた缶コーヒーを飲む。


「ああ、何の研究をしているのかは知らないが、俺の正体がバレてみろ。人体実験されかねないぞ……」


「確かに研究者の好奇心は、普通の人間を越えているからお前の体くらい。いくらでも実験に使ってくるだろう」


 和正は小笑いする。


「じゃ、俺は先に帰るわ。真田、例の件、頼むわ」


「分かってますよ」


 と、颯馬は部屋を出て行く。


「ったく……。あいつは……」


 クロエは溜息を漏らし、羽を広げ、聖羅の肩へと飛び、耳元で囁く。


「聖羅、私の件も調べておいてくれ。後、あいつの件に関しては、先に私に回すように……じゃないとあいつ、出しゃばって何をしでかすか分からないからな……」


「分かってますよ、クロちゃん」


 聖羅は、小声でクロエに返事をする。


「あ、それと……」


 聖羅はクロエに何か話をしている。


「分かった。貴様の頼みだ。やっておこう……」


「お願いします」


「何を話したんだ?」


 少し気になった和正が、聖羅に訊く。


「秘密よ」


 聖羅は唇に人差し指を添え、ウインクする。


「シークレットって事か……」


 クロエは聖羅の肩から窓の外へと飛び去って行った。


 和正も立ち上がって、ライフルケースを背負うと、部屋を出て行く。


「またな……」


 誰もいなくなった部屋で聖羅は、由乃に話しかける。


「由乃」


「何でしょう。聖羅様」


 呼ばれて返事をする。


「私達も帰りましょうか……」


「はい」


 聖羅たちも変える準備を始め、最後に部屋の鍵をしっかりと閉めた。




 先に部屋を出た颯馬は、駐輪場でバックの中から合羽を取り出し、着替えた後、自転車を漕ぎ始めようとした。


「颯馬!」


 靴箱の方で和正が雨の中、傘を差しながら立っていた。


「なんだ? 校門で待っててくれ。すぐに行く」


 そう言い残して、和正はそばにある階段を降りて行った。


「あ、そう……」


 颯馬は呆気に取られて、自転車を漕ぎ、校門へと向かう。


 雨の中、校舎の周りを走る部活動生とすれ違い、坂を下り、校門の前にたどり着くと、中庭の方から歩いてくる和正の姿が見える。駐車業を横切り、ゆっくりと颯馬に近づく。


「やぁ、待たせて悪い」


「おせーよ。早く家に帰れそうな俺が待たなきゃならねーんだよ」


「いいじゃないか。たまには雨の中、歩いて帰るのも悪くはないだろ?」


 和正は、クールにそう言った。


 二人は雨の中、歩いて帰る。


「それにしても雨の日までライフルを持ってこなくてもいいだろ。錆びないのか?」


「ああ、大丈夫だ。その心配はない。それにこれを持っていないと安心できない時もあるからな」


 と、和正は左胸をポンッと叩く。


 それを見た颯馬は、『あ』と、見ただけでそれが何かが分かる。


(左胸ポケットに銃を隠しているな……)


 他にも武器を隠している和正を見て、颯馬は一緒に帰りたくはないと思った。


(警察だけには、職務質問されないよな……)


 色々と考え込み、落ち込んでしまう颯馬。


 クロエはどこに行ってしまったのか、帰ったら帰ったで、絶対面倒な兄妹喧嘩が待っていると思ってしまう。


「それにしても、ここ最近、悪魔や魔女が現れるのが多くなっていないか?」


「そうか?」


「ここ一週間でおおよそ三十体。お前の魔法使いとしても分かっているだろうな?」


「分かっている。だが、やれるうちにやっておかないと、俺以外にいないだろ? 頼りのクロは、本来の力も出せないし、まぁ、本当かどうかは知らないが……終わってくれれば、それはそれで、楽なんだけどな……」


 合羽を着ているせいで、流れ落ちる雨が靴と靴下を濡らしていく。


「そう言えば……」


 颯馬は、黙り込んでしまう。




     ×     ×     ×




「お会計は、四六三四円になります」


 レジ係のお姉さんが、希に言った。


「あ、はい!」


 希は財布の中から五千円を渡し、お釣りを受け取る。買い物かごに入った商品とレジでもらったレジ袋を先にある台に持っていき、次々と商品を積んでいく。


「なんで、今日に限って……カレーなのよ……」


 今晩の食材を見て、何を作るのか見当がついていた。そして、明日の朝食の分の一緒にレジ袋の中に入れる。


「あれ? 雨が少し弱まってる」


 窓の外を見た希は、急いで他の食材も入れ、傘を持ち、店を出る。


 弱まった雨の中を傘を差して、急いで帰る希。


 信号待ちで足を止められ、早く青にならないかと心の中で思う。


「君は、この世界に魔法があると思うかい?」


 突然、声が聞こえた。辺りを見渡しても周りに声を掛けてきている人なんていない。


「ちがう、ちがう。こっちだよ、こっち……」


「え?」


 希は、恐る恐る足元の方を見る。


「やあ、こんにちは!」


 そこには白い猫。いや、人間語を喋る猫がそこにいた。


「きゃっ……」


「きゃ?」


「きゃぁぁあああああああ‼」


 希の叫び声が響き渡った。




「ねぇ、気づいた?」


「ああ……」


「あれって……」


「どうやら本格的に動き出したようだな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る