第1章 動き出す物語
Ⅰ
午前七時五分————
「きゃぁああああああああああああああ‼」
週の始めである月曜の朝から少女の叫び声が、響き渡った。
「————っ‼」
一階で料理をしている少年は、その叫び声を聞き、舌打ちをしながら料理をしていた。
「朝っぱらからうるせぇ……」
「やばい、やばい。寝過ごした! どうしよう、どうしよう‼」
少女はベットから飛び起きて、慌てて部屋を飛び出した。
急いで階段を降り、ショートカットで手すりに全体を乗せて、Vターンで飛び降りた。そのままリビングのドアを開けた。
「お、お兄ちゃん! な、なんで、起こしてくれなかったの⁉」
少女は、乱れた寝間着を着たまま、丁度、料理を終えた少年に言った。
「何を言っているんだ。お前は……? いつも通り、六時半にはうるさい程、目覚ましが鳴っていたぞ。起きなかったお前が悪い」
少年は慌てて席に座る少女を見て、呆れながら言った。
「そもそも、週の始めだっていうのにお前はいつも、いつも同じような事を繰り返しやがって……。いつまで小学生のつもりなんだ?」
「小学生じゃないもん! それにお兄ちゃん……」
少女は口ごもる。
「なんだ? 言ってみな?」
少年は意地悪そうな笑みを浮かべて少女をからかう。
「…………」
「どうした?」
「……」
「……」
「なんでもない⁉ いただきます‼」
少女は頬を赤らめたまま、手を合わせて、少年に感謝を言い、女子の食べ方とは思えない尋常な速さで、食べ始めた。
少年は、エプロンを脱いで、向かい側の席に座り、手を合わせて自分が作った朝食を食べ始める。
「希。いくら何でも食べ方が汚いぞ。もう少し、落ち着いて食べろ。それと、その乱れた服を整えろ」
少年が口にした『希』という名は、目の前で大急ぎで食べている少女の名前である。
この天海町にある市立天海中学校の二年生である。
肩の位置まで伸ばした髪は、寝起きでボサボサで、身長は百四十センチあるかないか。休み明けの朝にはとても弱く、いつも遅刻ギリギリの時間帯で登校することがよくある。
「いいの。食べ終えたらすぐに歯を磨いて、髪を整えるから! お兄ちゃんこそいいの? 遅刻するよ?」
「いいんだ。俺は、お前とは違って自転車だからこれを食べ終えたらすぐに出られる」
少年は、希とは違って制服を着ており、学校に行く荷物は、玄関に早々と用意している。
「お兄ちゃんが毎日起こしてくれたらこんなに急がなくてもいいのに……」
「俺が毎日起こすとか……どれだけ朝に弱いんだよ……。いつまでたっても俺に頼るな。俺はお前の兄だぞ。兄。分かっているのか?」
「分かってるよ! ごちそうさまでした!」
希は、そのまま食べ終えて、手を合わせた。
「食器は水に浸けとけよ」
「はーい」
希は食器を重ねて、台所の流しに置き、水に浸けた後、そのまま洗面所へと直行する。
「朝から忙しい奴だな……」
少年は希のそんな姿を見て、梅干しを一口、口の中に入れた。
希は、歯を磨きながら寝癖直しの液体を髪の毛に濡らし、櫛で整える。ついでに着ていた寝間着を脱いで、洗濯かごに入れる。
それが終わると、下着のまま、二階の自分の部屋へと駆け上がり、ハンガーに掛けてあった制服を手に取り、急いで着替えて、学校に行く準備を済ませる。
現在、時刻は午前七時二十分丁度。家から学校までの時間は、全力疾走すれば約十五分前後分。恐らく、ギリギリで間に合う時間だ。
部屋を出る前に忘れ物がないか、部屋を一通り見渡して、頭の中で今日の授業内容を繰り返し思い出す。
「よし! 忘れ物はなしっと……」
希はホッとして、ドアを閉めた。
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