「うるせぇ……。あれはどっかの誰かさんのせいで戦えなかっただけだ……」


 颯馬は、ふて腐れる。


「雪城さん、人のせいにしてはいけませんよ」


 と、少女の隣で立ったまま、あったかいお茶置入れたマグカップを差し入れる少女が言った。


「…………」


 颯馬は、一日中、朝の事で頭がいっぱいだ。


「そうだな。由乃の言う通りだ。人のせいにするじゃない。あれはお前の力じゃ、真正面から戦っても勝てない相手だ。考えても見ろ。例え、悪魔を倒したとしても、あれが攻撃を仕掛けてきたら一溜まりもないぞ。下手すれば、今頃、ここにはいないだろう」


 烏の姿で話をするクロエは、颯馬を睨みつける。


「だとしても、結局のところ、それを倒した奴も確認取れなかったし、急いで戻ったらギリギリで一時間目が始まろうとしていたんだぞ」


「ま、それはともかく、早く、話を進めないか? 今もこうしているうちに悪魔でも出たらどうする。お前以外は、まともに戦うことすら出来ないんだぞ」


 左目に痣がある少年が言う。


「カズ。お前のライフルだったら普通の悪魔にでも通用するんじゃなかったか?」


 颯馬が少年に訊く。


 少年の名は、中井和正なかいかずまさ。颯馬の同級生であり、銃の実力は、日本では敵なしと言われている程の実力。ついた二つ名は、『黒の弾丸ブラック・ブレット』。どんな距離でも、正確に狙撃してくることから一部の間ではそう呼ばれている。


 そして、黒髪に混じった赤毛の少女は、真田聖羅さなだせいら


 日本の真田財閥さなだざいばつの娘であり、その性格からお嬢様っぽいところもあるが、怒らせると怖く、権力があるもの全て、あるだけメリットの方に使うのが彼女のやり方だ。


 なぜか、普通の高校に通っている事だけが、周りの人間にとって、未だに疑問に思っている。


 最後に彼女の横に立っているのは、愛坂由乃あいさかゆの。真田家の使用人であり、聖羅の侍女を務めている。母がロシア人のハーフであり、綺麗な銀色の髪であり、目の色が日本人の黒っぽい色ではなく、青に近い色である。


 学力は普通であるが、それ以外の能力は超人並みのスペックを持ち合わせている。柔道、空手なども護身術として、黒帯を持つ人ぐらいの実力は兼ね備えている。


「普通の弾丸では、まず無理だ。悪魔の硬さは、想像を遥かに超えている。どんな距離でも威力があったとしても、あれを貫くためには、魔力が必要だ。だが、俺には、その魔力っていう馬鹿げた力を持っていない。例えば、自衛隊が持っている爆撃機を持っていたとしても、かすり傷程度にしかならないだろう。悪魔や魔女に対抗できるのは、魔法だけ。それでもそこのからすの羽から作られたこの弾丸は、少しくらいは役には立つが……」


 と、和正は真っ黒な弾丸を見せる。


 普通、弾丸は金色、もしくはそれに近い色の種類が多い。それに比べて、和正が見せた弾丸は、クロエの羽から作られた魔力を凝縮させた弾丸であり、それを秘密裏に製造しているのは、もちろん、真田家、真田財閥である。


 弾丸の製造に魔法を使っているとは、製造の役人たちには、一切、何一つも知らせておらず。全て機密情報として聖羅が指揮を執っている。


「だけどな、魔力の籠った弾丸と言っても、結論から言って、殺傷能力は本人が使用する魔力の半減だろ? 今のこいつは、本来の魔力を持っていない。いくら、お前の腕が良くても悪魔はそう簡単に倒す事なんてできないんだぞ」


 颯馬は、腕を組み、足も組む。


「確かに簡単に倒すことができないのは分かっている。じゃあ、逆に人を敵として撃つとしたらどこを狙う?」


 和正は颯馬に、今までの話を元に質問をする。


「心臓か?」


 颯馬は即答で返す。


「いや、心臓ではない。心臓は確かに撃ち抜かれたら、命の保証はないが、数秒から数十秒の間は活動できる。要はここだ」


 和正は自分の眉間みけんを指差す。


「眉間?」


 颯馬は、指された場所の名前を口にする。


「そうだ。真田もなぜ、ここなのか。それくらいの理由は知っているだろ?」


「ええ。眉間を狙うのは狙撃手スナイパーとしての基本。人の眉間を撃ち抜くと、脳へと貫通する。つまりは、視界や行動力を一気に失う。もし、外したとしても弾丸が脳に貫通していれば、今後、狙撃手スナイパーとしての生命は絶たれる。中井君はそう言いたいんでしょ?」


 聖羅は、サラッと、答えた。


「正解だ。殺す覚悟を持っている奴は、必ずここを狙ってくる。まあ、風とか天気などの計算によっては、それが少し外れる事があるけどな。でも、人を殺す覚悟がない奴は、いつになってもそれをする事は出来ない」


 和正はライフルをライフルケースにしまい、弾丸を制服のポケットに入れる。


「それで、クロちゃん。その相手は、本当に分からなかったの?」


 聖羅は、クロエに訊く。


「ああ、私の目には、あれが誰だったのかは分からなかったが、一つだけ、確信ではないが、分かったのがある」


「何か、あったのか?」


 颯馬が、クロエの方を見る。


「長い棒のようなものだ」


「長い棒?」


 颯馬は、首を傾げる。


「ああ、魔法使い、魔法少女の多くには、それぞれ武器を保持している奴が多い。颯馬の場合は、刀。ま、これは最初から決まっていたから変わらないが、長い棒になると、槍、薙刀、六尺棒など、色々とあるが、おそらく、その中のどれか一つだと思う」


「それを持っている奴が、今回の謎の人物。何か不味い事でもあるのか?」


「そうだな……。もしも、仮に、それが魔法少女だったら、面倒な事が起こる」


「面倒な事だと?」


 颯馬は、なんだか嫌そうな顔を見せ、恐ろしい事をなんとなく想像する。


「それは…………」




     ×     ×     ×




「ねぇ、希。一緒に帰ろー‼」


 家に帰る準備をしている希に友人の潮田夏菜しおたかなが声を掛けてきた。


 伸ばした髪は、左右の二つに纏めており、前髪は、右斜めにして髪留めで留めている。


「うん。分かった」


 希は最後に筆箱をカバンの中にしまうと、それを背負って立ち上がる。


 机の横に掛けておいたサブバックを左肩に掛ける。


「それにしても、部活が無いのにサブバックが必要な日って面倒だよね」


 夏菜が溜息を漏らしながら言った。


「そうだね。さすがに体操服や着替えは、カバンの中に入れれないし、それに外が外だしね……」


 希は、窓の外を見ると、傘を差した生徒たちが下校しており、部活動生たちは南校舎でランニングしている生徒もいれば、外で雨に濡れながら、いつも通りの練習をしている部活もあった。


「それに比べて、せっかくの週の始めが休みだっていうのに、なんで、よりにもよって雨なの?」


 希もまた、夏菜と同じように溜息を漏らす。


 希と夏菜は、同じテニス部に所属しており、一年の頃から、ダブルスではペアを組んでいる。


 そのテニスコートですらも雨のせいで、足場が悪くなっている。


「ま、朝、お兄ちゃんから折り畳み傘を渡された時は、『え?』って、思ったけどさ……」

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