あえて言う。この物語は泣ける現代ドラマだと。

作者が選んだジャンルはSFだが、明日起きるかもしれない――いや、今この世界で起きていることが描かれている物語といっても過言ではない。

ある国のある地域で発生した青カビ。何らかの理由により変異したその青カビは爆発的な繁殖力を持ち、人々の移動に伴ってやがて世界中に広まっていく。
物流の停滞、誤った情報による物資の不足、そして始まるロックダウン。
そう、わたしたちが進行形で体験しているコロナ禍を誰もが連想するだろう。
この物語では様々な場所で多くの人たちが、この想像もしなかった事態に立ち向かっていく姿が描かれている。そこにあるのは強い心だけではなく、葛藤や弱さ、使命感、それぞれの思いだ。

自分の立場でいま出来ることは何か。

ひとりひとりがそのことに向き合い、一歩ずつ進んでいくさまに胸が熱くなる。
三十人余りが登場する群像劇でありながらキャラに個性があり、よどみないストーリーが繰り広げられるのは作者の力量か。回収されていく伏線も心地よい。
化学・生物学・地学などの専門知識に裏付けされた展開にはなるほどとうなずかされる。
人としての在り方、種としての存続まで読み手に投げかけているこの作品を良質な現代ドラマと呼ばずして何と呼ぼうか。


涙は悲しいときだけに流れるものではない。
この素晴らしい作品をありがとう。

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