三十五年目のラブレター

作者 如月芳美

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★★★ Excellent!!!

 全編を通じて感じたのは様々な「愛」。
 そこには相手を思うがゆえの辛さ、苦しさも伴っています。

 冒頭の第一話で示された手紙の一節だけで、読み手は作者の世界へ引き込まれるでしょう。
 この手紙は一体なんなのだろう……。
 タイトルとの関連は?
 ある事件が起こり、登場人物たちのつながりが少しずつ明らかになるにつれ、手紙の持つ意味も鮮明になっていきます。

 ミステリーとして謎解きの要素は薄いものの、ホワイダニットと呼ばれる「なぜ犯行をおこなったのか」という動機にスポットを当てて物語は進みます。ときおり挟まれる女性主人公の一人称視点での語りも、読み手の心情をぐっと近づける効果があると感じました。

 美術に関する情報も、お好きな方はうなずきながら、そうでない方にも雑学として絶妙なさじ加減で散りばめられているこの作品。
 手紙の持つ意味もそれぞれの思いもすべてが明らかになったとき、あなたの胸にはどんな思いがよぎるでしょうか。

★★★ Excellent!!!

つくづく人は誰かの人生の一部しか見ていないんだなと思う。
それはまるで額縁に飾られた一枚の絵のように、ほんの一面なんだ。
そんなジグソーパズルのような切れ端から、その人がどんな人かを想像する。
人生の裏側に何が並んでいるのかと。

ミステリーは謎解きばかりではなく、動機の解明に魅力が現れる。
そしてそんな作品は、人物設定が極めてしっかりしているんだな。
私は豪華なソファーに座ってブランデーを舐めながら読んだ。(イメージです)
「ふっ、重厚な作りの作品を仕上げてきた、この作者」(遠い目)
悲し過ぎる結末を思い胸が傷む。当事者にはまるで反省などないものだな。

登場人物たちがふと口にする言葉が、とても響いてくる。奥が深い。
特にすきなのは「第17話 クロード・モネ」の回の
「かささぎ」についての絵の描写。質感のある言葉が美しい。

まぁ、そして、何といっても! 島崎&川畑の刑事コンビ! 
今回はそこに川畑のデキル上司の吉井まででてきて
相変わらずのジレジレ状態にさせてくれる。
しかも途中からずっと二人は会ってないのに、心はもっと近づいてるとかっ!
(この二人のシーンになると、私はソファーの上にぴょこんと正座する。)

ミステリーが無理なら、この二人でラブコメでもSFでも童話でもいいから
また何か書いて下さいね。 シリーズ化バンザイ!
女にプレゼントし慣れない男がさりげなく渡す芸当ができるとは!
(ここだけナイスタイミング!)

★★★ Excellent!!!

ミステリー、なのですが、とても静かで穏やかで優しく、
優しいからこそ、激しい感情を感じるミステリー。

人物相関、変わる友情、耐えられない気持ち……見事なストーリーと、巧みな人物描写です。

そして個人的に、おすすめはですね、美術品がかなりコアに出てくるんです!
アール・ヌーヴォーが中心ですが、日本画も出てきます。その選択までがそれぞれ秀逸!

ストーリー、雰囲気、題材どれもおすすめ。かっこいい女刑事さんもいますよ

★★★ Excellent!!!

 本作は、いわゆる「本格」ではなく、人間ドラマを主軸に展開していくミステリだ。
 奇抜なトリックや非現実的な舞台装置は存在しない。犯人も早い段階で明らかになる。
 読者はただ、作者氏の巧みな筆致によって描かれる人間模様と、それを通して浮かび上がる「ホワイダニット(何故、犯人は犯行を行ったのか?)」に身をゆだねるだけで、極上の物語を体験できるはず。

 「ミステリってなんか難しそう」と普段は敬遠されている方も、どうか安心してお読みいただきたいと思う。

 島崎と川畑、二人の刑事コンビが真相に迫るというバディものの側面も持っており、二人の微妙な関係性も見所。
 私などは「もう、やきもきさせるなぁ!」と何度思わされたことか(苦笑)。
 そんな「過程」の描写も本作の魅力の一つ。

 数々の人間模様を通して明らかになる「三十五年目のラブレター」の真実とは?
 愛と哀に溢れるその結末を、ぜひとも目撃していただきたい。

★★★ Excellent!!!

ある手紙からこの物語は始まる。
この手紙の主は、何を伝えたかったのか。

そして送られてきた怪文書。
「最も価値のある物を奪ってやる」
この意味を探る鍵は、各自の心の中にある。
最も価値のある物を探しながら読み進めていって欲しい。

それをウシナったモノがどうやって生きていくのかに思いを馳せながら。


そんなかっこいいミステリーでありながら、読者を惑わせる、キュンキュンの数々。
危うく推理している途中の、事件のピースの数々を見失うところでした。
ラストではきっとあなたも思うでしょう。
「次回作はいつですか?」と。

★★★ Excellent!!!

ミステリーが好きだ。
表紙裏に書かれた登場人物から吟味する。犯人は誰だろうと。
本格ミステリーは読者への挑戦状だ。犯人に辿り着けるギリギリの情報を開示し、読み解く楽しさを与えてくれる。そして外れても、納得のいく外れ方なのだ。
作者との駆け引き、知恵比べが楽しい。だからミステリーが好きだ。
なので私はフーダニット(だれがやったか)が好きなのだろう。


『一番価値のあるものを奪ってやる』

活字を切り貼りした怪文書が、三人の元に届く。
アートギャラリーを経営する中橋。横領で逮捕された阿久津。強制猥褻で逮捕された西川。

この小説の容疑者は七人。(内ふたりは既に他界)
全て同じ大学の登山サークルに所属していた。
ただし、サークルはアウトドア派とトレッキング派の二つに分かれている。

『アウトドア派』
阿久津文明(六十歳)建設会社経理部長。業務上横領容疑で逮捕。
西川修(六十歳)都議会議員。強制猥褻容疑で逮捕。
内藤きよみ(五十九歳)小料理屋を経営。アパレルメーカー経理、クラブのホステス。現在はスナックのママ。
木立美琴(享年五十六歳)専業主婦。夫に先立たれ、後を追うように他界。

『トレッキング派』
桐谷武彦(六十歳)商業高校でこの春まで簿記の教師。
中橋洋一(五十九歳)アートギャラリーナカハシのオーナー。
宮脇恵美(享年二十六歳)

宮脇恵美と桐谷武彦は付き合っていた。
怪文書が届いたのは阿久津、西川、中橋。

誰が犯人か。もうお分かりだろう。
そしてこの小説は序盤で犯人が提示される。犯人捜しではなく、動機の解明である。

Who done it?「だれがやったか」
How done it?「どのようになされたか」
Why done it?「なぜおこなったか」
でいくと、今回は三つ目のホワイダニット(犯行の動機)の話だ。


アウトドア派の女性二人が職を転々としたり、夫の後… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

なぜ?

この作品はそれにつきるだろう。

というのも犯行もその犯人も、読者は数話のうちに分かってしまうからだ。

しかもスリリングなことに、刑事と犯人が何度も出会い、言葉を交わし、なんだったら捕まらないでほしいとすら読者に思わせてしまう。

本作には読者が疑うべき謎などないのだ。

だが「なぜ?」だけが残る。

それはきっと最後にこそ明かされる事実なのだろう。

それまではバディもの、さらにミュージアム(博学)ものとして楽しむのが上策ではないかと愚考する。

並々ならぬ書き手の実力を感じてほしい。

多分、我々は何かに騙されている。

★★★ Excellent!!!

 僕は基本的に物語がシームレスにかつ一定のスピードを保って流れていくのが好きで、書くのも読むのもそういう作品を意図してしまうという自覚があります。そしてそういう作中での時間の流れをどれだけ巧くコントロールできるかという所に作家の技量は出るかなと勝手に思っております。

 いや、なんでそんな話をするねんというと「如月芳美さんはそれがどちゃくそ巧い作家なんですよー」という、ちょっとそれはどうなんよというヨイショではなくてですね、どっちかっていうと言い訳なんです。
 如月さんの作品を三作読んでおきながら、とりあえずはこの一作だけレビューするのは、つまるところそういう理由です。僕の中の好き・レビュー書きたいという評価基準は上に書いた内容に拠っており(もちろん他にもある)、それに該当したのが今のところは「三十五年目のラブレター」だけってことです。
 わざわざレビューで書くことでもないんですけれどね。
 これ、勘違いしないで欲しいのは、僕の評価軸というだけの話ですので、他の小説は皆さんそれぞれの軸で評価されればいいと思いますし、面白いと思えば面白いと言えばいいと思います。というか、小説を評価するってのはそういう、自分の中のものさしを引っ張り出してきて測るってことなので、小学校のテストみたいに絶対的な正解を求めるみたいなものではないでしょう。

 うん、何と戦っているんだ僕は。(如月さんなんかツイッターでよくしてくれているのにこんなことになってごめんねという謝意を全力で表したかった)

 という訳で、同時三作品を投入されている如月芳美さんですが、本作品はその中でも物語の連続性がすこぶる優れている・巧いという感想を個人的に持っている作品になります。

 なにを置いても、内容がシンプルなのがいい。

 起こるのは誘拐事件。分からないのはWhy――なぜ誘拐されたのか。
 事件の発端にあるのは… 続きを読む