パンデミックから世界を救ったのは我らが日本の千葉モデル

パンデミック。世界的大流行。

本作『黴』は「あらまあ、嫌だわ」で始まった日常の風景が日常ではなく異常であることに人々が気づいていくパニック小説。

ある意味主役(?)である『彼ら』は人命を脅かしたりしません。それどころか我々は『彼ら』を有効活用、薬の原料にしたり、チーズを熟成させることに利用したり。そう、我ら人類は自然を科学で支配してきたのです(by 二階堂博士)。

ところがあるきっかけで『彼ら』は爆発的速度で増え広がっていきます。

対する人類は無尽蔵に増殖を繰り返していく『彼ら』に右往左往、とうとうインフォデミックによる歪んだ正義が暴走し始めます。
純粋に研究に打ち込む大学生たちが誹謗中傷の的となり……。

この世界的危機は島国日本をも襲い始めます。世界で起こっていることを対岸の火事と笑う政府とは違い、危機感を持って対処しようとしていた千葉県でしたが、それでもやはり、真っ先に被害を受けたのは世界との窓口を持つここでした。

その千葉県、黙ってなどいません。
丹下ちゃんこと千葉県知事、ぬまちゃんこと阿曽沼副知事。
また、このパンデミックが始まってすぐ、海外から協力を仰がれ活動していた二階堂研究所所長と、そこに勤務する天野博士。
彼ら強力タッグチームは「千葉モデル」と称して『彼ら』を封じ込める作戦を立てて実行していきます。

本作は伊坂幸太郎さんを彷彿とさせる見事な群像劇。主人公が章によってガラリと変わります。

ところが、ストーリーが細切れになることがありません。
群像劇ならではの、はっきりとした点をそれぞれの場面で思う存分味わうことができます。それらが時に豪快に絡み合い、時に心地良く結び合い、そうして。いつしか面を成していくのですよ。

濃厚重厚なパンデミック群像劇、楽しめること間違いなしです。至極の一篇と出会えたことに感謝。

このレビューの作品

その他のおすすめレビュー

丸和 華さんの他のおすすめレビュー75