作者 如月芳美

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★★★ Excellent!!!

ただのカビ、されどカビ。異常な繁殖力を得たカビが世界を覆い尽くす恐怖と、その困難に敢然と立ち向かう人々を描いた傑作です。時折差し挟まれる専門用語やらはスパイス程度。むしろこの作品の凄さは、次々と登場するキャラクターの簡潔かつ緻密な描写にあります。

オーストラリア、ケニア、アイスランド、アラスカ、日本という世界中を舞台に、そこにいる様々な人々の不安や恐怖、焦り、希望、解決に向けた強い意志、それらを事細かに、なおかつ飽きさせることのない筆致でグイグイと読ませる。パニックを描いた群像劇として、そうはお目にかかれない面白さ。

そして登場人物が決してへこたれないどころか、危機に向かって立ち上がるのが良い!終盤の「チーム筧」の活躍ぶりとか、手に汗握りながらも最後は喝采を叫びたくなること請け合い!

息もつかせぬ映画鑑賞体験に似た味わいが間違いなく約束された本作、是非ご一読ください!

★★★ Excellent!!!

読みながら何度も「すごい…」と言葉を失ってしまいました。
世界各国の人が出てくる群像劇ですが、あの点がこの点とつながり、光の線となって未来へつながっていく、その様を見ながらなんだか泣けました。

生活を侵食していく黴、パンデミックでパニックになる世界、その中で懸命に自分たちの社会を取り戻すために奮闘する人々――。でも、黴が決して悪者ではなく、何かを人間に気づかせるため、という描き方もとてもいいなと思いました。

如月さんは本当にすごい書き手です。
これからも作品、心より楽しみにしています。

★★★ Excellent!!!

作者が選んだジャンルはSFだが、明日起きるかもしれない――いや、今この世界で起きていることが描かれている物語といっても過言ではない。

ある国のある地域で発生した青カビ。何らかの理由により変異したその青カビは爆発的な繁殖力を持ち、人々の移動に伴ってやがて世界中に広まっていく。
物流の停滞、誤った情報による物資の不足、そして始まるロックダウン。
そう、わたしたちが進行形で体験しているコロナ禍を誰もが連想するだろう。
この物語では様々な場所で多くの人たちが、この想像もしなかった事態に立ち向かっていく姿が描かれている。そこにあるのは強い心だけではなく、葛藤や弱さ、使命感、それぞれの思いだ。

自分の立場でいま出来ることは何か。

ひとりひとりがそのことに向き合い、一歩ずつ進んでいくさまに胸が熱くなる。
三十人余りが登場する群像劇でありながらキャラに個性があり、よどみないストーリーが繰り広げられるのは作者の力量か。回収されていく伏線も心地よい。
化学・生物学・地学などの専門知識に裏付けされた展開にはなるほどとうなずかされる。
人としての在り方、種としての存続まで読み手に投げかけているこの作品を良質な現代ドラマと呼ばずして何と呼ぼうか。


涙は悲しいときだけに流れるものではない。
この素晴らしい作品をありがとう。

★★★ Excellent!!!

パンデミック。世界的大流行。

本作『黴』は「あらまあ、嫌だわ」で始まった日常の風景が日常ではなく異常であることに人々が気づいていくパニック小説。

ある意味主役(?)である『彼ら』は人命を脅かしたりしません。それどころか我々は『彼ら』を有効活用、薬の原料にしたり、チーズを熟成させることに利用したり。そう、我ら人類は自然を科学で支配してきたのです(by 二階堂博士)。

ところがあるきっかけで『彼ら』は爆発的速度で増え広がっていきます。

対する人類は無尽蔵に増殖を繰り返していく『彼ら』に右往左往、とうとうインフォデミックによる歪んだ正義が暴走し始めます。
純粋に研究に打ち込む大学生たちが誹謗中傷の的となり……。

この世界的危機は島国日本をも襲い始めます。世界で起こっていることを対岸の火事と笑う政府とは違い、危機感を持って対処しようとしていた千葉県でしたが、それでもやはり、真っ先に被害を受けたのは世界との窓口を持つここでした。

その千葉県、黙ってなどいません。
丹下ちゃんこと千葉県知事、ぬまちゃんこと阿曽沼副知事。
また、このパンデミックが始まってすぐ、海外から協力を仰がれ活動していた二階堂研究所所長と、そこに勤務する天野博士。
彼ら強力タッグチームは「千葉モデル」と称して『彼ら』を封じ込める作戦を立てて実行していきます。

本作は伊坂幸太郎さんを彷彿とさせる見事な群像劇。主人公が章によってガラリと変わります。

ところが、ストーリーが細切れになることがありません。
群像劇ならではの、はっきりとした点をそれぞれの場面で思う存分味わうことができます。それらが時に豪快に絡み合い、時に心地良く結び合い、そうして。いつしか面を成していくのですよ。

濃厚重厚なパンデミック群像劇、楽しめること間違いなしです。至極の一篇と出会えたことに感謝。

★★★ Excellent!!!

ていうかなるでしょ!?映画に!
もういい感じの渋ーい俳優さんが出るわけですよね。あぁ、考えただけでもうよだれ出るわ。

なんてふざけたことばかり書いてても仕方ないですからね。とはいえ今回もお得意の勢いレビューなんですけども。

ストーリーがどうだとかね、その辺は他の方のレビューを読んで頂くとしてですよ。私が声を大にして言い(書き)たいのは、

キャラが全員最高すぎんだろ!!!

ってことです。

おっかしいなぁ、途中まで「くっそムカつくなこいつ」って思ってたはずなのに、気付けば「もうアンタ最高だよ!」ってエール送りまくりなんですよ。
如月さんの小説はとにかく恰好良いオッサンが出て来るんですよ。しびれる。

あっ、オッサンに限定しちゃうと駄目ですね。もう老若男女みんな恰好良い。信念があってね、こう、芯が一本通っててね、ズバッと切り込んでくれたりするんですよ。もー何、そんな最高のキャラってどうやって作んのよ、って。

ストーリーもね、もちろん最高なんですけどね、キャラが良いからもうストーリーも生きる生きる。

最後にもう一回言わせてくれ。

これ誰か映画にしてくれえ!!!

★★★ Excellent!!!

 どこにでもある人畜無害だったモノが人々に猛威をふるう。その結果巻き起こる人々のパニックは恐ろしい事です。
 でも、それよりももっと恐ろしいものがこの中には出てきます……
 
 正義の名のもとに行われる行為ほど恐ろしいものはありません。なぜなら、その行為を行っている人は自分が正義だと思っているので、行為に対する制限が一切なくなっているからです。アナタが掲げている正義の御旗は本物ですか? 一度立ち止まって考えてみませんか?

 カクヨムで小説を読んでいるアナタなら、誹謗中傷をされたらどうなるか? 犯人捜しのターゲットにされたらどうなるか? 想像力が豊富なアナタなら容易に想像できるはずです。

 読了後にそんな事をしっかりと考えさせる、骨太な作品です。


★★★ Excellent!!!

地球上のあちこちで青カビが異常増殖し、人間の生活を脅かす。
原因は何か、誰が胞子を運んできたのか。さまざまな憶測やデマが飛び交い、人々はパニックに陥っていく——
そんな様子を、住む場所も立場も年齢も違う人物の視点から描く群像劇です。

昨年から始まったコロナ禍でも、同様の混乱がありました。
ウイルスそのもの以上に、人間の心や言動の方が怖いと感じた人も多いのではないでしょうか。
それゆえに、カビに翻弄される人々の視点で綴られた前半部には、凄まじいリアリティがありました。

そして原因の究明と対策が進められていく後半部の、有能な人々が見事な連携を見せるグルーヴ感たるや。
骨太なテーマで終始シリアスに進むストーリーながら、素晴らしいエンタメ作品に仕上がっています。

人類は自然とどう向き合うべきか。
発達した科学がどのような役目を担うのか。
現在のことばかりでなく、未来のことにも思いを馳せました。
まさに今の時代に読むべき作品です。最高に面白かったです!

★★★ Excellent!!!

ある日突然、家の中でカビが生えていたら。普通なら掃除をして、それで終わるはずです。
だけどカビはだんだんと広がっていき、世界中で猛威をふるう。

当たり前のように口にしていた食べ物が、働いていた職場が、次々とカビに侵食されていく。
そんな時人は、どう対処するでしょう。

カビが広がったのはアイツのせいだ。カビの被害にあった地域の人とは、接触すべきでない。
ネット上では心無い言葉が飛び交い、人の無自覚な悪意によって被害はさらに拡大していく。

これはそんな、カビが猛威を振るう世界で生きるたくさんの人達にスポットを当てた群像劇。
カビの驚異だけでなく、勝手な憶測で誰かが悪者にされ、誹謗中傷が飛び交う様子には恐怖を感じました。

もしかしたら、現実に起こり得るかもしれない出来事。その時人はどう事態を捉えて、どんな決断をするべきか。
非常に考えさせられるお話でした。

★★★ Excellent!!!

とても面白かった、すごい、圧倒されます。

人為ではない恐怖が襲う。
未知のものを前にする。
そんなとき、人はどんな行動をとってしまうのか。
私たちはいま、ウイルスの脅威にさらされていますが、この物語は私たち人間がそうした未曾有の事態に出くわした時、どうなるか、ヒトの生々しい在り方を描き出します。
でも、そんなときにどうすればいいのか。

身に染みて考えます。

そうした内容の奥深さに加え、序盤に張られた伏線からあとあと繋がる時の見事さ、作者様の博識(本当にすごい)、各人物それぞれの味もまた素晴らしい。

これに魅了されて他の作品も読みたくなります…現に読んでます。
語り尽くさないのでこの先は読んで味わってください!

★★★ Excellent!!!

 これは持論なのですが、面白い作品には「物語を貫くテーマ」と「リアリティ」があると思っているのです。本作はそのどちらも兼ね備え、かつ読みやすく、読み出した手が止まらないような圧倒的な面白さを有する、本当に骨太で重厚な素晴らしい物語になっています。

 この物語のタイトルが示すとおり、本作は「カビ」と人類が戦う物語。そこには圧倒的なリアリティがあって、ハラハラドキドキ、この先どうなってしまうのかと手に汗握る展開が続いていく。緊張感がずっと続いていて、ワクワクしながら読んでいました。

 長々と書いてしまいましたが、圧倒的に面白い! 読書でワクワクしたい人へ、本当にオススメな物語です!

★★★ Excellent!!!

言っていることは難しいかもしれないが、それを発しているのは魅力的なキャラクター。
ラノベのように分かりやすい「ヒーロー」「ヒロイン」の居ない「群像劇」を、難しく感じてしまう方は、そう考えてみて欲しい。
私も「群像劇」が取り立てて好きというわけではなく、どちらかと言えばラノベ派だが、魅力的なキャラクターたちとヒタヒタと増殖する青カビのホラー要素で、素直に「ヒィィイイイイ、カビこあい!」「今だ、やっつけろ!」と感情移入して楽しませて頂いた。
ただし、「やっつけろ」は間違いであったと、エピローグで気付かされる。
ラストを読者に託す形で終わることの多い著者だが、今回は珍しくハッキリとしたメッセージが描かれている。
貴方は未来を、誰に託すか?
その答えをぜひ知って欲しい。

★★★ Excellent!!!

黴が好き、なんて言う人は、おそらくほとんどいないでしょう。とはいえ、黴は時として薬にもなりますし、ブルーチーズなどの食品にだってなる。好きとは言わなくても、どこかでその恩恵を受けている人も少なくはないでしょう。
しかしそれも、適度な量であればの話。常識を遥かに越えた速度で繁殖した場合、どうなってしまうのか。それを事細かに描いたのが本作。

突如信じられない速度で繁殖を始めた黴は瞬く間に世界各地へと広がり、人々の生活を脅かします。
そして黴そのものの脅威もさることながら、厄介なのはそれに反応する人々。誰が黴を広めたかと犯人探しをし、特定したかと思うと歪んだ正義感で攻撃する。また、対策を講じなければならない政府も、あれやこれやと理屈をこねるばかりで何もしない。なんだか、今のご時世と似ています。

もちろん、この話はフィクション。ですが未知の脅威に直面した時、人はどう動くか、どうしなければならないか。それらがリアルに描かれ、非常に読み応えのあるものとなっています。