特別編4 今年はいい年うるう年

「先輩! 今日はうるう日ですよ、うるう日! いい年ですね!」

「勿論知っているけれど、それほどに盛り上がるような日だったか?」

「ちっちっち、分かってませんね〜先輩は! 四年に一度なんですよ? つまり私たちも四年に一度のテンションで過ごす義務があるのです!」

「いや、ないからな?」


 宣言通りに異常な盛り上がりを見せる後輩。少し心配になるくらい普段と様子が――違わないか。普段からこんな感じだ。


「ほら、先輩もその鉄仮面を脱ぎ捨てて、本性を剥き出しにしましょうよ! 本能の赴くままに、ね?」

「ドヤ顔は結構だが、何も上手いこと言えてないぞ」

「はぁ〜……これだから先輩は先輩なんですよ」

「意味不明だけれど、なかなかどうしてイラッとするな」

「相変わらず表情は全く変わってませんけどね〜」

「あ〜、超イラつくわ〜。イラつき過ぎてカレーをぐちゃぐちゃに混ぜてやりたいわ〜」

「先輩⁉︎ 何言ってるんですか⁉︎ フラットにそんな事言われるとものすごく怖いんですけど⁉︎」

「失礼だな。せっかく君の言った通り、四年に一度のテンションとやらを披露したというのに」

「変化が地味!」

「馬鹿言うな。カレーを混ぜるなんて、四年に一度どころか僕の人生で一度たりとも起こさせやしないからな」

「私が悪かったですから! 謝りますから! いつもの先輩に戻ってください!」


 ちょっと涙目になりながら懇願されてしまった。そこまで変な言動をとったつもりはなかったんだけど。


「まったくもう……ああ言えばこう言うんですから」

「さも僕が悪いかの言い分には物申したいところだな」

「先輩が悪いです! こんなに可愛い後輩が色々と策を巡らせているんですよ?」

「……策?」

「本気で心当たりがない風に首を傾げないで下さいっ! ちょっと傷つくじゃないですか!」

「悪い悪い」

「……そうやって頭を撫でれば誤魔化せると思ってますよね?」

「嫌か?」

「……嫌じゃないのが嫌なんです」


 うう~、と恨みがましい視線を向けてくる。そういう仕草を見たいがため彼女に抵抗する僕も、本質的には同類なのだろう。

 けれど彼女は自分のどういう行動が僕に刺さるのかを理解していないようで。普段であれば絶対に口にしない言葉を、四年に一度のテンションに任せて告げる。


「敵に塩を送るみたいだけれど、僕を揺さぶりたいのなら自然体が一番だと思うぞ」

「んん~? わたしとしてはナチュラルな立ち振る舞いを心掛けているんですけど?」

「心掛けている時点で自然体じゃないけどな」

「んにゃ⁉ い、言われなくてもわかってますよ~だ!」

「はいはい、偉い偉い」

「むぅ~!」


 むくれながら胸を叩き続ける後輩を受け入れつつ、ふと疑問だったことを確認する。


「そういえば、どうしてうるう日があるからっていい年なんだ?」

「え? だって先輩と一日多く会えるんですよ? いい年に決まってるじゃないですか」


 きょとんと、さも当たり前のように告げる後輩。

 まったく……そういうところだからな?

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