第3話 プロポーズ大成功?

「と、ともかく! 始業式なんですよ! クラス替えなんですよ、先輩!」


 隣を歩く後輩が、両手をグッと握って力強く力説してくる。


「今年こそは同じクラスになれるといいですね?」


 ふむ、見え透いた釣り針を垂らしてきたな。

 僕たちは一般的な先輩と後輩の関係であり、当然ながら学年が異なる。

 今日から僕は高校三年生。

 彼女は二年生。

 しかし、そんなことを指摘されるのは承知の上だろう。それなら――


「ああ、そうだな。一緒になれるといいな」

「いやいや、そもそも学年が違うじゃないですか。先輩ってば、私のこと好きすぎません?」


 にひひ、としたり顔を披露する後輩。これで勝った気になるあたり、本当に見通しが甘い。


「……君は考えたことないのか?」

「ふえ? な、何をですか?」

「もし同じ学年で、もし同じクラスだったらって」

「…………」

「林間学校や修学旅行、文化祭のイベントを一緒にいられたらって」

「そ、そんなの……決まってるじゃないですか……」

「何が?」

「考えたことあるに決まってるじゃないですか! 同じクラスだったらなって、すごく楽しいんだろうなって、いつも考えてますよっ!」

「……なぁ」

「な、なんですか?」

「学年が違うから、同じクラスにはなれないんだぞ? 君、僕のこと好きすぎないか?」

「……な、なななななな」


 一旦は余裕に満ち溢れていた様子が一変し、みるみる顔が沸騰していく。

 まったく、人をからかうには素直すぎる後輩である。


「先輩のあほー! いつもいつも私を虐めて!」

「仕掛けてくるのは、いつも君からじゃないか」

「そんなの記憶にありません!」

「おい、記憶保持の記録保持者」

「その記録は時効です!」


 ぷいっ、と顔を背ける。

 人を煽るくせに低沸点とは手に負えない。しかもフォローしないとそれなりに引きずる、とても面倒な性格。


「なぁ」

「なんですかっ⁉︎」

「学年が違うのはどうにも出来ないし、同じクラスになんて当然なれないけれど」

「うぐぅ……」

「こうして、同じ時間は共有できるだろ?」

「えっ……」


 それでも、僕は言葉を紡ぐ。

 かなり胡散臭い台詞に、それなりの本心を織り込んで。


「君も知っての通り、僕は幸いにも学校でも家でも一人だからさ」

「……それを幸いとは思いませんけれど」

「僕の時間は、君が好きなように使ってくれればいい」

「……なんかプロポーズみたいですね。付き合ってすらいないのに」

「言われてみれば、その通りだな」


 まあ僕の臆病さを知る彼女が勘違いすることはないだろうけれど。


「そこまで言われては仕方がありません。先輩の時間は私が責任を持って、絶対に幸せなものにしてあげますからっ!」

「それこそプロポーズだぞ?」

「ふぇあっ⁉︎ に、にゃに言っちゃってるんですか⁉︎ 美意識過剰ですっ!」

「それは君のことだろうに」

「私が可愛いのは確乎たる事実ですから~」

「あ~カワイイカワイイ」

「心がこもってない⁉」


 すっかり普段通りに戻り、軽口を叩き合う。


 君は気づいていないだろう。

 僕が君との時間をどれだけ――

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