希みが叶う時、命の恍惚を味わわせてくれる

この結末を物悲しいと捉えるなら、きっと世俗にいくらか満足し、現実と折り合いをつけて生きていられるという証拠だろう。それが悪いのではない。己を人間と自覚するからにはそう生きざるを得ないからだ。でもその心にふと空洞が空くとき、この物語はその隙間にするりと入り込んでしまう。
美しい文体で描かれた儚く脆いその姿につい意識を取られてしまうけれど、少年(のかたちをした薔薇)の熱は希死概念ではなく、希生概念だ。
土に還りたい。正しい姿で生まれ変わりたい、と。
しかし現実の物差しには当てはまらない。
理解されがたい希みは、病室の中に閉じ込められてしまう。
救いはこの物語の本当の主人公である青年が握っている。結末を目にすると、二人の出会いは必然であったとすら思える。
各話とも短くまとめられているものの、さらりと読み流すわけにはいかない凝縮した言葉が並んでいる。最後に感じるのは誰にも手が届かないふたりだけの恍惚である。
現実と現実のあいだ、ほんのいっときだけ、濃密な命の存在を感じてみてはいかがだろうか。

その他のおすすめレビュー

柊圭介さんの他のおすすめレビュー1,054