この物語は、大胆な実験作であると思われます。多面的な視点から構成される各話、さらに起承転結をあえて使わずに読み手の想像力をかきたてる手法。これはよほど文章力に構成力が伴わなければ失敗してもおかしくない、そんな物語なのです。では読了してどうであったのか。実験は大成功であったと申し上げたいのです。タイトルにある「走行性」を見事に著している今作。高校生を主人公に、正と負の走行性を完璧に描き切っているのです。短編でありながら、読了後に大きく肩で息をはきました。ここまで短編で表現ができるのかと、同じ書き手として嫉妬心を凌駕する満足感にひたっております。エンディングから続編を要望されるかもしれません。でもわたしは単独でこの物語をお薦めしたい。なぜなら、読み手の想像力をいかんなく発揮できるエンディングだからです。読み手は受け手ではありません。書き手の描かれた世界を、さらに発展させる想像力を持って読書するわけですから。今作は自信を持ってレビューさせていただきます。