第四回 喪を発せずして楊素は権を弄び、三たび位を正して阿摩は登極す
三たび
※
そこに文帝の詔があり、
「陛下は病が重く混乱されていよう。我が身に変事があらば
「
「
「
そう言うと、楊素は寝宮に入りました。
※
病身の上に怒りを発した文帝の顔色は悪く
「卿は我が大事を誤ったぞ」
「陛下はお加減がよろしくございません。お気を平らかに。老臣が何を誤ったと
「卿と皇后は
▼「黄泉」は原文では「九泉」としますが、同じく「死後の世界」の意です。
「皇太子は国の
楊素が拒むと、文帝は怒って言いつのります。
「この
▼老賊は年長男性への罵倒語、「クソジジイ」くらいの意味です。
かつての文帝であれば無言で楊素を退けたところですが、病の身では
「早く楊勇を呼べ、早く」
文帝が切れ切れに命じても、それを聞く者はありません。
文帝の余命が
※
今や新皇帝を定める
楊素は病身の文帝を顧みることなく、寝宮を出ると聞えよがしに
「さて、皇帝の位は誰のものとなるか」
当然、寝宮の脇には心配でならぬ皇太子が隠れておりました。楊素の言葉を聞くと、驚き慌てて声をかけます。
「賢卿には苦労ばかりかけておるが、事態は
「若君はしくじられましたな。我には関わりのないことです」
楊素は先ほどとは打って変わった
皇太子としては楊素を行かせるわけに参りません。その前を
「この
「我が若君のために骨を折ってようやく皇太子の位を得られたというに、事を誤られるとは。先ほど詔があって兄上(楊勇)をお召しになられました。詔を違えることは許されますまい」
「我は確かに賢卿の期待を裏切った。しかし、亡き皇后陛下は我を賢卿に託されたではないか。我のためのみならず母后のためにも我を帝位に即けてくれ。さすればこの楊廣が終生その恩を忘れぬばかりか、黄泉の母后も必ずお喜びになるであろう。頼む」
そう言うと、皇太子はついに
楊素はそれを押しとどめて言いました。
「一計がないわけではございません。ただ、手を下せば千年の罪人となりましょう。まずはゆるゆるとご相談いたしましょう」
「
それを聞くと、楊素が
「この場には我より他におりません。誰が変事をなせましょうや。しかし、若君がそのようにお急ぎであれば、すみやかに事をなさねばなりませんな」
楊素が皇太子に耳うちすると、皇太子は
寝宮に入って文帝の容態を確かめるよう命じられると、張衡は
※
皇太子と楊素が寝宮の脇にある
「陛下がお亡くなりになりました。殿下は早く寝宮にお越し下さい」
皇太子と楊素は寝宮に入ると、文帝の病床に向かって
皇太子が
「殿下、
それより、楊素は皇太子と謀って宮官や宮女に
日が暮れかかる頃、皇太子が楊素を宮中に宿らせようとすると、楊素は言います。
「老臣が宮中に宿れば疑いを持つ者も現れましょう。ここは一度下がって百官を安心させてやるのが上策でございます」
「賢卿の言に理がある。しかし、賢卿が宮中を退いては我が心が休まらぬ」
不安げな皇太子に楊素は笑って言いました。
「老臣は前言を
「我とて
そう言うと、皇太子は楊素を送り出したのでございました。
※
楊素が宮城の
「どのような詔がございましたか」
「陛下の病は
百官はその言葉を聞くと、大いに喜んで散じていきました。
翌朝、百官はみな吉服をまとって
▼「賀表」は祝辞を伝える上表文を言います。
皇太子は宮内から様子を窺っておりましたが、百官の中に楊素がおりません。
よもや心を変じたかと焦るところ、楊素が藤で飾った
「賢卿を幾度も
「老臣がおります。
楊素はその他の大臣たちとともに皇太子を連れて殿上に上ります。
※
すでに殿上の
「
▼「大行皇帝」はすでに世を去った皇帝への敬称、「崩御」は皇帝の死をそう呼びます。
殿外に駆けだした楊素はそう叫び、
百官は色を失ってただ詔を聞くばかり、その周りはすでに数百の兵に囲まれております。
これは、宮城を守る
そんなことと知らぬ百官は、ただ周囲を囲む
「皇太子は久しく
▼「天顔」は皇帝の顔の意です。
しばらくすると進み出て
「すでに先帝の詔もあり、百官も
皇帝の
そこに大音声の楽が奏でられると大いに驚き、
宮官たちが支えて事なきを得ましたものの、あろうことか再び玉座より倒れ落ちそうになります。
楊素は老いたりとはいえ
百官は一斉に平伏して万歳を唱え、ここに隋の
煬帝は百官を
▼「上柱国」は軍中での最高位、「中門使」は『新五代史』『旧五代史』によると機密に関わる官だったようです。隋のお話なのであまり意味はありませんけど。
さらに詔を下して文帝の崩御と新皇帝の即位を天下に知らしめ、
百官が退いた後、煬帝はただ楊素だけを留めてその功労に謝し、さらに
楊素が
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