第十三回 雲を携えて輦を傍らに路すがら風流し、彩を剪りて花となして冬に富貴たり
雲を
※
ある日、
「もはや
煬帝は喜んでそう言うと、勅使を遣わして江南の美女を選び抜かせ、四十九の離宮の院主とするよう命じます。
その一方、行幸の随従は
▼御林軍は『三国志演義』に皇帝直轄軍みたいな感じで現れますが架空です。
▼宇文達って誰でしょうね。宇文化及のことなのかな、、、
この御女車の中は大変に広くて寝具まで備わり、四面は海中にある
鮫綃の幔幕を垂らせば外から内側は窺えず内から外は素通しに見えるという珍品、幔幕の周りには金鈴が下がっておりますので、車が進めばそれらが
「この車があれば、
そう喜んだ煬帝は何安に厚く下賜し、その日のうちに江都に向けて洛陽を発ったのでございました。
※
それぞれの宮館には数十の美女があって
煬帝は沿道の山を訊ね川を問い、各地の名勝を遊覧して道は早くも千里を過ぎようとしておりましたが、ただ西苑で遊ぶのに同じくいっこう疲れを憶えません。
道が江都に到れば、
「江都の風光明媚は聞き及ぶとおりであるな」
そう言うと、まずは瓊花を愛でるべく
「瓊花を愛でられぬのは心残りであるが、江都の風景だけでも十分鑑賞に堪えるというものだ」
それより一日として宮殿に留まることなく、あまたの妃嬪を引き連れて四方の遊覧に日を送ったのでございました。
※
この頃、江南に栄えた
▼東晋の建康に華林園が存在したことは確実ですが、少なくとも文帝司馬昭の時期ではなく、南遷後の元帝司馬睿より後のことです。
▼臺城は宮城のことを指します。
▼文選楼は実在の建築ではなく宋代に生じた伝説とされるようです。
それでも、煬帝は
「江都の風景は美麗ではございますが、その位置は中国の
百官がそう諫めると、煬帝は見る間に不機嫌になって
「今や天下は一家となって四海はみな陛下の都でございます。どうして
その言葉を聞いて煬帝は膝を打ち、これにて遷都の議は打ち切りとなったのでございましたが、それからも煬帝は江都に留まって河北に還る素振りもございません。
※
一日、東京洛陽から江都に使者が訪れ、
「皇后や十六夫人が待ちわびているとあれば、帰らぬわけにもいかぬ」
そう言うと、煬帝は重い腰を上げて帰途につき、数旬の後には洛陽に帰りつきました。
洛陽では蕭皇后と十六夫人が出迎えて西苑に誘い、遠路の疲れを労う酒宴を開いてもてなします。
時はすでに
「江都の山川は花びらの一片、柳の一枝であってもこの西苑に比べて色鮮やか、この冬枯れの庭園のごとき寂寞たる景色はついぞ目にせなんだ。朕がかの地に久しく留まっておったのも無理からぬであろう」
煬帝が蕭皇后にそう言うと、
「陛下が寂寞をお嫌いとあれば明日には百花を開かせ、
「もしもそのようなことができれば朕の心も慰められような」
煬帝は笑ってそう言うと盃を干し、ついに蕭皇后とともに
※
翌日、十六院の夫人より
それでも蕭皇后の再三の勧めに従って西苑に車を進めれば、苑門を一歩入るより百花は一斉に花開いて
「仲冬であると言うのに、どうして一夜にして花が咲いたのか」
煬帝と蕭皇后が
「この苑中の花々は江都に比していかがでしょうか?」
夫人たちが問うと煬帝は大いに喜んで申します。
「どのような妙術があってこれらの花を一夜にして咲かせたのか」
「どうして妙術などございましょう。ただ陛下のために一夜に工夫をしただけでございます。一枝を折って御覧になればよくよくお分かりになりましょう」
言われた煬帝が枝を垂れる
「誰がこのような妙案を考えたのか。実に巧みで一見ではそれと分からぬ」
煬帝が問えば、夫人たちが答えます。
「これは秦夫人の発案ですのよ。
「昨日、一夜にして花を開かせると聞いた時は戯れと思っておったが、このような奇策を秘めておったとは。真に
煬帝はそう言って秦夫人を褒め、蕭皇后や十六夫人とともに苑内を巡れば或いは紅に或いは白に、
煬帝は喜びのあまり内官に命じて蔵の
それより、煬帝と蕭皇后は
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