第六回 同に魚を釣りて越公は志を恣にし、宮人を撻して煬帝は嗔りを生ず
※
▼桂は香木、蘭は香草、いずれも見目も香りもよいので、桂で造った高殿と蘭を飾った宮の意から転じて美しい宮殿を意味します。
ある日、煬帝は
▼『
避暑地とは言え正午ともなれば
「
「ここより他に宮殿を造られたいとの
蕭皇后が言うと煬帝は
「宮殿を造ろうにも、朝廷の
「百官は
「まったく皇后の言う通り百官など意に介するに及ばぬ。だた
三人は杯を重ねて楽しみ、日暮れとともに宮城に帰ったのでございました。
※
翌日、煬帝は朝早くからふたたび太液池に向かい、
ほどなく楊素が到着すると煬帝は
楊素は即位の大功臣、辞退もせずにただ
「この頃久しく卿の顔を見ておらなんだが、決して忘れてはおらぬ。この池で魚を釣る楽しみを共にしようと呼んだのだ」
「『
▼「禽を放てば荒み、獣を放てば滅びる」は原文では「禽に従うときは荒み、獣に従うときは滅びる」とし、原著は「縱禽則荒、縱獸則亡」としますが、意味が通りません。「縱禽」は狩猟や娯楽のために柵の中に禽獣を放つ意でよく遣われるため、「放つ」と判断しました。文意は「禽獣を柵の中で飼うような行いは民のためになるはずもないので、そんなことに
▼魯の隠公は漁を観覧して楽しんだため、『春秋』で「礼に
「
▼「渭陽の翁」は原文では「
楊素は太公望になぞらえて持ち上げられると大いに喜んで言いました。
「陛下がこの
二人は並んで池の端、柳の木陰に腰を下ろして釣り糸を垂れ、
※
「先に魚を釣り上げた者を勝ちとし、負けた者は
煬帝の言葉に楊素も異論なく、二人の勝負が始まりました。煬帝はすぐに
「
楊素は魚を驚かさないように無言で
「朕は二匹目を釣り上げた。これで罰杯は二杯になったの」
周囲にある宮女と宦官たちは釣れる気配もない楊素を見ると口を
「
楊素は意地になってそう言うと煬帝には目もくれずに釣りに集中しました。
楊素の大言に
煬帝はその姿を気に入らなく思いながら眺めておりましたが、しばらくすると楊素が
「御覧になられましたか。志があれば成らぬことなどございません」
「賢卿のような臣があれば、朕には何の
楊素の
※
二人は
「ただ今、漁師が
煬帝が持ってくるように命じると、その鯉は六、七尺はあろうかという大きさ、全身の鱗が金色に輝いております。
「この鯉には
「鯉が
楊素の勧めを煬帝は拒み、
「この鯉は間もなく死ぬであろう。朕は自然のままに死なせてやろう」
ついに左右の者に命じて池に放たせたのでございました。
※
煬帝と楊素は酒宴に戻り、数杯の酒を干したところで先ほど釣り上げた三匹の魚の
▼膾は魚肉を細く刻んだ料理を言います。
煬帝は大きな杯に酒を注がせると、楊素に差し向けて言います。
「先ほど約束したとおり、朕が先に釣り上げたのだから賢卿はこの杯を干さねばならぬぞ」
楊素は大杯を飲み干すと、酒を注がせて煬帝に差し向けます。
「遅うはございましたが釣り上げたのは金色の
煬帝はその杯を受け取って飲み干すと言いました。
「朕は先に二匹の魚を釣り上げたのだから、賢卿はもう一杯飲まねばならぬ」
「陛下は二匹を釣り上げられたとは言え、大きさでは老臣に及びますまい。陛下が魚の多少で老臣に杯を薦められるならば、老臣もまた大きさで返杯せねばならず、この杯はお受けできませぬ」
そう言うと、楊素は宦官が差し出した杯を退けようとします。
杯を差し出す者はよもや楊素が押し戻すとは思わず、杯を取り落としてしまいました。
先ほどの釣りで宮女や宦官に笑われた怨みも相まって、酒をひっかけられた楊素が叱りつけました。
「この
そう言うと、左右の者に命じて
そうなると、宦官を打つ者も煬帝の顔色を
二十回も打ちすえると楊素は身を
「宦官や宮女といった者どもは帝王が
「賢卿は
煬帝がそう言うと、二人は酒宴に戻ってさらに杯を重ねます。
ついに
※
煬帝は楊素を見送ると、急ぎ
「朕の前で
「楊素は陛下を
「それでは朕の怒りのやり場がないではないか」
蕭皇后は酒宴の用意をさせると煬帝に杯を薦めます。
数杯を飲み干して怒りが解けると煬帝が気になるのは宣華夫人のことです。
「宣華はどうしてここに来ぬのか」
「夫人は体調が思わしくなく、本日は宮より一歩も出ておりませぬ。大液池で寒さにあたったのでございましょう」
それを聞くと煬帝は杯を放り出して後宮に向かいました。
宣華夫人の部屋に入って
「
そう言い終わる前に夫人の目から涙が
「一時の病に過ぎぬ。しばらく身を休めればすぐに良くなろう。どうしてそのように不吉なことを言うのか。何か理由でもあるのか」
煬帝が再三に問うても夫人はただ涙を流すのみでしたが、しばらくすると涙を
「昨夜、夢に一人の者が妾を迎えに参ったのでございます。陛下の
「夢など信じるに及ばぬ。心を悩ませるでない」
煬帝は内心で文帝の霊を大いに
そこに蕭皇后も現れて二人で宣華夫人を慰めると中宮に帰っていきましたが、それより煬帝は心配で何事も手につきません。
これより夫人の病は日々に重く、数日の後に世を去ったのでございました。
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