第五回 黄金の盒に同心を賜わり、仙都宮より重ねて召し入らる
※
ほどなく文帝の
そこに一人の
「皇帝陛下より夫人への贈り物でございます。手に取って御覧下さい」
盒を受け取ってみれば、
▼花押はサインのようなものとお考え下さい。
「毒薬などではございますまいな」
「皇帝陛下が自ら封印されたのでございます。
宣華夫人の問いに宦官は答えず、いよいよ毒薬ではないかと疑います。
お付きの者たちも世間知らずの娘ばかり、みな真っ青になって中には声を上げて泣きだす者までおりました。
「嘆かれたところでどうしようもございません。すみやかにお開け下さい」
宦官が再三に促すと宣華夫人はようやく涙をふるって封を破り、恐るおそる蓋を取り去ります。
案に相違して盒の中にはただ美しく結び合わせられた五色の
「夫人は死を免れられました。
▼重畳は「大変喜ばしい」の意です。
お付きの者たちは一斉に笑って喜びますが、同心結から新皇帝の求愛を覚った夫人はただ
▼同心結は求愛の印ですので、受け取ると求愛を受け入れたとされます。
「夫人が陛下の御心に従われませなんだがゆえ、今日の変事と
やむなく宣華夫人は同心結を受け取り、空になった盒を拝して返します。
宦官は空の盒を捧げて後宮を退いたのでございました。
※
一方の煬帝は同心結を送ってから
そこに宦官が空の盒を捧げて戻り、宣華夫人が同心結を受け取ったと報せます。
想いがなったと喜んだ煬帝、すぐさま後宮に駆けつけたいところですが帝位に
日中は耐え忍んでおりましたが日が暮れれば気持ちを抑えようもなく、数人の宦官を連れて密かに宣華夫人の宮に向かいます。
宣華夫人は同心結を受け取ったことを
ついに煬帝を受け入れて
※
それよりしばらく、煬帝は日暮れの後に宣華夫人を訪れて早朝に帰り、朝廷にも欠かさず出ておりました。
それが半月を過ぎれば宣華夫人の宮に留まって日が高くなっても起きて参りません。
皇后の
▼皇太子の居所を
ある日、報せる者があって宣華夫人の宮に通っていると知り、前殿で煬帝に
「陛下は数日前に帝位に即かれたにも関わらず、早くも皇后である
「待て待て、事を
「陛下の御考えは妾には関係ございません。お聞き入れにならないのでしたら、宦官たちを遣わして宣華夫人に恥をかいて頂くだけのことです」
そもそも煬帝は蕭皇后に頭が上がりません。
その皇后が
その間、煬帝の意を受けた宦官が宣華夫人の許に向かい、夫人の身を宮城外の
※
宣華夫人が宮城の外に出て数日、夫人を忘れられぬ煬帝は気持ちを鎮められません。
朝夕に宮官や宦官を
▼打擲は打つ、殴るの意です。
ある日、盛りにある
▼牡丹の盛りは4月から6月頃、旧暦では晩春から初夏の花です。
酒も
「人が天地の間に生まれて身は尊い天子となり、山海の富を集めたところで一人の美人と
「後宮には数千の
「
▼佳人は美人の意です。
蕭皇后の
※
蕭皇后は煬帝が宣華夫人を忘れられぬと知り、翌日に見えて申し上げました。
「妾は陛下と夫婦の情を
▼両便は一挙両得くらいの意味です。
「そうしてもらえるのであれば、皇后は天下一の賢徳の婦人と呼ばれよう。しかし、
「どうして妾が
煬帝は大いに喜んで夫人がいる仙都宮に宦官を遣わします。
ほどなく車に乗って宣華夫人が宮城に到り、煬帝はその手を引いてまず中宮で蕭皇后に見えさせました。
宣華夫人の
それより酒宴となって
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