第十一回 龍舟を泛かべて煬帝は毫を揮い、清夜に游びて蕭后は寵を弄ぶ
※
新たな
この日、煬帝が「
文武の百官はいずれも正装、それぞれ煬帝の前後に名馬に跨って洛陽の顕仁宮を出ると、まるで万国の衣冠と全国の
煬帝が西苑に入ると、伝令の者が走って宴席を
「今や海内は泰平、朕は卿らと楽しみを同じくし、これは千年に稀な慶事である。卿らのうちで文才のある者は詩を
声に応じて先に
「臣は不才ではございますが俚言を奉らせて頂きます」
虞世基の詩は次のようなものでございました。
五湖風景異 天子聖恩偏
五湖の風景は異に 天子の聖恩は
敕賜陪宸宴 傳宣泛御船
敕にて賜う
鳥吹新管籥 花吐錦雲煙
鳥は吹く新たな
願作南山獻 君王壽萬年
願わくば南山の
それより詩を献じる者が相次ぎ、
聖主宸游日 花香鳥語甜
聖主の
回舟趨劍履 進食列梅鹽
舟を回して
水碧千秋鑒 山高萬古瞻
水は
君恩如湛露 歡飲正厭厭
君恩は
と船上での宴と西苑の風景を歌えば、
四海承平久 君王樂事多
四海承平して久しく 君王に樂事多し
仙禽來獻瑞 北海靜無波
觥履交珠玉 笙歌雜綺羅
小臣持獻壽 花柳正婆娑
小臣は持して壽を獻じ 花柳は正に
と煬帝の徳を讃えて長壽を
▼司隸大夫は司隷臺大夫、煬帝の時に置かれた長安と洛陽の行政長官です。光禄大夫は身分は高いですが無任所の散官、つまり名誉職です。
煬帝はいずれの詩も大いに喜び、それぞれを三杯の酒で
「卿らが佳作をなしたからには、朕も手を
近侍の者に命じて紙筆を持たせると、湖上月、湖上柳、湖上雪、湖上草、湖上花、湖上女、湖上酒、湖上水から成る「
煬帝の喜びは限りなく、群臣それぞれに一杯の酒を賜うと、これを潮に酒宴はお開き、船は岸に着けられて百官は退出していったのでございました。
※
煬帝はいまだ興が尽きず、再び小龍舟に乗って
二十名の美女は歌舞をなして耳目を楽しませ、それぞれ煬帝に盃を献じるなか、
「お前はこの詩に曲をつけて他の者たちに習わせよ」
そう命じると、煬帝は迎暉院を出て
この謝夫人は琴の名手、煬帝に所望されて
關關雎鳩
在河之洲
河の洲にあり
窈窕淑女
君子好逑
君子の
煬帝はその妙技を喜んでまた数杯の酒を過ごし、そこからは船を棄てて車に乗って
煬帝を迎えた
「今日、陛下は朝からこんな夜更けまでお楽しみになったのでございますから、
「皇后が西苑に遊ぶとあれば、朕もともに夜半の月を愛でたいものよな」
「顕仁宮の宮女たちは誰も西苑を知りませぬ。ともに連れて行ってよろしゅうございますか?」
「構わぬ構わぬ。朕が武衛どもに命じて馬を引かせ、宮女たちに騎乗させて朕は皇后と月を愛でよう。しかし、馬上で古い楽を奏でては興ざめ、いくつか新しい楽を合奏させればさらに風情があろうな」
「誠によいお考え、新たに詩をお詠みになってそれを
煬帝が求められるままに筆を揮って「
「陛下はまさに七歩の高才、古の帝王とて誰も陛下には及びますまい」
▼「七歩の才」は七歩の歩みのうちに詩を作った
そう言うと、皇后は宮女を召し集めて夜を徹して清夜遊の詩を習わせ、その一方、写しを迎暉院の朱貴児の許に遣り、明晩に煬帝を出迎える際にはこの詩を歌うよう命じたのでございました。
※
翌日、煬帝は武衛の者たちに命じて三千の馬を整えさせ、その半ばは顕仁宮の前に繋ぎ、一半は西苑に送らせます。
さらに夜宴の用意をそれぞれに命じ、後は日が暮れるのを待つばかり、ほどなく太陽は西山に隠れて青紫の空には一点の雲もなく、東より明月が昇ってまいりました。
宮女たちは命を受けて騎乗し、煬帝は蕭皇后の手を執ってともに二人乗りの輦に座し、
ゆるゆると宮門より御道に出て半ばの
煬帝は馬上ながら十六院の夫人に酒盃を賜うと一同して西苑に向かい、蕭皇后とともに龍舟に乗って五湖に漕ぎ出し、十六院の夫人たちはそれぞれの龍舟で従って数千の宮女は鳳舸に乗って楽を奏でます。
煬帝と蕭皇后はある時は五湖に酒宴を開き、またある時は北海に歌舞し、三神山にかかる明月を愛でて龍鱗渠を渡る風を楽しんで東の空が白む頃にようやく宴を止めて舟を下りたのでございました。
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