第11話 旅立ち
「ダメだよオルヴィス! アナタが行くならわたしも行く!」
「オルヴィス。頼む。考え直してくれ」
「徴兵が嫌なのはわかるけど、そんな真実かどうかもわからない伝説を追いかけたらダメだよッ」
「正直、できることなら僕も君について行きたい。だけど、その顔は…。ダメなんだな」
「伝説やロマンを追い求めるのは、ガキのやることだ。ガードリアスも腹くくって兵士やってんだから、テメェも兵士になってみろ。平時に人殺しやりゃ、罪人だが、兵士やって敵殺しゃ、誉れであり、英雄だ。まったく、同じことやりながら噛み合わねぇ馬鹿げた理屈にゃヘドが出るが、それが人の世の定めだ。テメェもたまには定めに従いやがれ」
フリーダにはついて来ると言われ、ガードリアスには止められ、マスターにはボロクソに言われたが、オルヴィスは初めから一人で行くつもりだった。これは一人でないといけない旅だった。人間は個々の力を合わせて協力し合うことはできても、最終的には個々の力で困難に打ち勝っていかないといけない。相手の苦しみをいたわってやることはできても、痛みを共有したり、同じ痛みを味わったり、代わってあげたりできないように。人はみんな、一人だ。産まれてくる時も一人、死ぬ時も一人。
複雑な胸中をオルヴィスは二人に話したが、フリーダは納得しなかった。
「…さみしいよ、オルヴィス。アナタがいなくなったら…」フリーダは涙を浮かべ、感情が高ぶりすぎたのか、しゃっくりを起こした。
「ありがとうフリーダ」オルヴィスは彼女の背中をさすった。彼女にありがとうと素直に礼を言ったのは初めてかもしれない。「さみしい、と言ってもらえる相手がいることは、幸せなもんなんだな。その幸せをオレは自ら捨てようとしているどうしようもないバカだ。わかってほしいとは言わない。オレはオレ自身の都合で旅に出て、アクラシスの森をめざす。オレはオレだけの体だ。他の誰のものでもない。母から産まれた瞬間から、オレは母の一部ではなくなった。育ててくれた恩義や感謝はもちろんあるし、家族だが、本質的には、オレはその時点で一人になった。ナイフを刺されたら、オレだけが死ぬ。人はみんな孤独だ」
「孤独なんて悲しいこと言わないでよ〜」フリーダはますます激しく泣きじゃくった。「わたしはいつでもオルヴィスのそばにいたいよ〜どうしてそばにいたら、ダメなの? わたしはアナタに寄り添っていたいだけなのに」
「寄り添う、か…」
一瞬、オルヴィスの決意にブレが生じた。確かに、他人が他人の孤独を緩和してあげられるとしたら、寄り添うことだけだろうと思った。だが、今回の旅はどれだけ説得されても一人で行くと決めていた。そこに迷いはなかった。
「フリーダ。もしもオマエがオレのために人を殺せ、って言われたら殺せるか?」
意地悪な問いかけだったが、これしか思いつかなかった。
フリーダは押し黙った。
「そういうことだ」とオルヴィスは別れを告げた。「オレは行くぜ。ガードリアス、フリーダ、マスター、あばよ! 達者でやれなッ」
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