第5話 幸運

 コースジャンは叩きつける嵐の中、高台にうつ伏せになり望遠レンズで海上の様子を眺めていた。隣で同じようにした部下に話しかける。

「どうやら戦わずして勝利したようだな。あの嵐では無事で済むまい」

「急いで築いた土塁も無駄になりましたね」

「無駄ということはない。アイツらが一度の失敗で侵略を諦めると思うか? 必ずもう一度来るはずだ。その時こそ土塁が役に立つだろう」




「残った船の数は!」船の縁に死ぬ気で捕まりながらゼックハウザーは怒号を上げた。ナガメもまた叩きつける大粒の雨にも負けまいと必死で海上を見渡した。

「目視によると、四、五艘かと思われます! ギリンガムも見当たりません!」

「四、五艘だと? 三十艘もあった船団が嵐に遭い、戦わずして四、五艘しか残っていないと! ナガメ! 撤収だ! このままでは俺たちの船まで沈んでしまう! とりあえず暴風域を脱し、そのまま本国へ帰る! 急げよッ」

「はッ」

 部隊のほとんどを失った神聖サハルト帝国大船団は、大波にもまれながら、なんとか本国にたどり着いた頃には、二艘の船もまた失っていた。

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