第6話 皇帝ミアヴォルト

 皇帝であり大神官でもあるミアヴォルトは、神殿の玉座の間の背後に掲げられた壮大な宗教画を見上げていた。

 まだ人の文明が生まれる前、すべての民はすべて同じ土地に住む仲間であり同胞であった。ところが、人々があまりに争いを好むため、ならば、死ぬまで争いをせよ、と神がお怒りになり、以来、人を民族や人種に分け、お互いを滅ぼすまで戦争を続けることになったという。だが、それでは、あまりにも救いようがない。だからミアヴォルトは、自分こそがふたたび民を一つにする使命を帯びている、と思った。そうやって、大陸の各国を平定してきた。今のところ、反逆や謀反の兆候はない。次は、海の向こうの国々だった。

 巨大な扉を押し開けて、ゼックハウザー海将が入ってきた。

「失礼いたします、陛下。例の飛鳥ノ国への侵攻作戦ですが、ツキに見放され、嵐に遭い、船団のほとんどを失い、退却せざるを得ませんでした。申し訳ございませぬ」

 ミアヴォルトは深く目をつむり、振り返らぬままうなずいた。

「海で散った死者への鎮魂は忘れるな。それと、天体博士の進言にはしっかりと耳を傾けよ」




 飛鳥ノ国の国王フィンレンソンは、海を見渡す山の頂上にある神殿にて風神アイピカに感謝の意を表明していた。

「アイピカ様。このたびの戦、嵐を呼び込まれ、戦わずして我が国が勝利いたしましたのは、ひとえにあなた様のおかげ、感謝いたします」

 フィンレンソンは、大皿の上に乗った死んだばかりの少女の心臓を供物として掲げた。彼は、生きた少女の心臓を捧げるという周辺国の野蛮の風習を廃し、病などで死んだばかりの少女の心臓を捧げるという儀式にあらためた。各国の有力者から不平と不満の声が上がったが、「ならば、オマエの娘の心臓を捧げよ!」と一喝すると黙った。国全体が一つになりつつあった。

「近ごろ、マクリードの市で、かの帝国の宣教師に扮した奴隷商人が我が国民を売買して、外国へ売り飛ばしているそうだな」

 国王フィンレンソンはそのことを大変憂慮していた。争いのない国を築くため、すべての人種や民を統一するなどと大言壮語を掲げたところで、素知らぬふりして人民の奴隷売買を行う国は信用できなかった。

「ええ」とミニングアック将軍が答えた。「かの国は、とくに身寄りがなく、働き手をして活躍が期待される若い少年少女らを中心に見本市にて、まるで犬畜生がごとく展示して売っていきます」

「目に余る。即刻、奴隷商人を見つけ次第捕らえて処刑せよ」

「ははッ」

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