第4話 神聖サハルト帝国船団襲来

 海鳥の鳴く晴天に帆布を広げ、ムカデのように広がった櫂を漕ぎ進む中央を進む船団の中でもとりわけ大きな船の上。

 神聖サハルト帝国は歴戦の猛者であるゼックハウザー海将と青年将校のギリンガム大尉が上陸作戦について話し合っていた。

「鉄砲の準備はぬかりないか?」

「本体の点検、部品の点検。火薬玉の点検ともに、すべて整っております」

「飛鳥ノ国には鉄砲はないと聞くな」

「鉄砲は我々独自の技術であります。あのちっぽけな島にはないでありましょう」

「鉄砲にぬかりはなくても、鉄砲は濡れると役に立たぬ。万が一に備えて弓矢の点検も怠るな」

「海将、その濡れるなというお言葉につきまして、一つご忠告がございます」

 話に入ってきたのは、軍師ナガメである。本船における唯一の女性だった。切れ長の目をさらにナイフのように研ぎ澄ませて言った。「天体博士の話によると、この先天気が大きく崩れるそうであります。上陸作戦におかれましては、できるだけ早くなされた方がよろしいか、と」

 沖の方から真っ黒な雲が噴煙のように近づいていた。

「むむ。こんなに天気がいいのに、変わるか。ナガメ。安全な湾を探せ」

「ここに地図がございます」

 以前から何度か送り込んだ密偵が書き記した地図を広げた。

「本船と補給部隊は、湾に入り次第待機することとする」ゼックハウザーが命令を下すと、ギリンガムが若者らしく溌剌と名乗りを上げた。

「では、その間、私が周辺にある集落を占領しながら、我が国の旗を掲げ、補給地を築き、ヤツらの心臓部を目指しましょう」

 ギリンガムが最前線にいる突撃部隊まで行こうと小船に乗り移り、ラッパを吹いた時だった。急に突風が吹き始めた。かと思うとパラパラと大粒の雨が混じり始める。波がうねった。船のコントロールが効かない。盛り上がった波の上に遊ばれるように意図しないところへ運ばれていった。

 その後は大惨事になった。普通の嵐ではなかった。波は白波が立ち、うねり、振りつける雨は土砂降りになって船を打ちつけ、あちこちで船が転覆した。船団の主力を構成する大型の船も例外ではなかった。自身の乗り込んだ船も転覆したギリンガムは、押し寄せる大波に飲み込まれつつある中、ゼックハウザー海将の乗る本船だけが唯一嵐の中、なんとか耐え忍んでいる光景を見た。そして、戦う前に溺死するのは無念以外のなにものでもなかったが、俺は特別な人間ではないと諦め、最後にこの非情な世界を変えようと尽力される皇帝ミアヴォルトに祈りを捧げた。

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