第8話

◎1916年西部戦線

ヴェルダンの戦い

ドイツ帝国は膠着した戦線の打開にパリへ続く街道の中心点、ヴェルダンを目標とした。

喀血戦術によりフランスへ損害を強いて戦争継続を困難にし、大戦から離脱させる予定であったが、結果としてこの戦いを消耗戦と理解しないヴィルヘルム皇太子はヴェルダン攻略に固執した事により泥沼化しドイツ軍は敗北した。

ドイツ軍は重砲808門、野砲300門をもって猛烈な砲撃を開始。

急襲的利益を得るため、午後4時には砲撃は終了した。この短時間に相手陣地を破壊するため、ドイツ軍はこれまでの精密射撃を廃し地帯射撃を採用した。これは射撃精度を第二位に置き、簡略な射撃修正で射撃地区一帯に砲撃を加えるものである。また、歩兵も急襲的効果を得るため、通常100m内からの突撃を500mから開始した。


ヴェルダンに対するドイツ軍の攻撃法は縦方向に逐次蚕食的に攻撃部隊を進めるのみならず、横方向においても蚕食的な攻撃の実施であった。これに基づきドイツ軍は広正面中のある一点に対して急襲を実施し、攻撃第2日目にはフランス軍第1陣地の3拠点を奪取、一挙に深さ約3kmを猛進し、フランス軍第2陣地前で攻撃を中止した。その翌日には前記3拠点に隣接する両翼の2拠点を奪取し、第4日目には第2陣地の1拠点を突破し、その翌日の25日にはさらに前日奪取した拠点に隣接する数拠点を占領。そして第3陣地の一部である永久堡塁、すなわちこの付近の最高所であるドゥオモン要塞を占領するにいたった。このようにして2月28日までには深さ7km、正面実に45kmのフランス軍陣地を奪取し、フランス軍第4陣地と対峙することとなる。この間攻撃師団中で疲労が大きいものは逐次隣接部隊や予備隊と交代され、緩むことなく攻撃を続行した。

一方フランス軍においては22日以来、第2線師団を招致して逐次第1線師団と交代し新鋭部隊をもってドイツ軍の攻撃に抵抗していたが、これまで述べてきたように不良であった。ジョフル将軍の憂慮は甚だしく、そのためソンム攻勢のために準備されていた第2線師団を続々増援し、また第二軍司令官にフィリップ・ペタン将軍を当てた。ペタン将軍は頽廃していた士気を回復させ、またジョフル将軍の招致した第2線師団は次々にヴェルダンに投入された。これによりしばらく乱れていたフランス軍の足並みがそろい始める。一方、ドイツ軍は攻勢のために生じた損傷および疲労のため一時攻撃の手を緩めたなどの原因により、爾後の攻撃の進展は遅々として進まなかった。


3月4日、第5軍は攻撃方針を改めミューズ川右岸のみの攻撃を廃し、両側を攻撃してヴェルダンを包囲することに方針を変えた。そのため4個師団が増強された。2日間の砲撃の後3月6日に攻撃が開始されたがもはや急襲的効果はなく、フランス軍がペタン将軍に率いられた新鋭部隊を投入したことにもより損害ばかりが増えることとなった。ミューズ川左右両岸において両軍の執拗な争奪戦が生じ、特にヴォー堡塁(英語版)およびキュミエール=ル=モールトムでは惨烈極まりない戦いが展開された。3月末、ファルケンハインは自軍の損害の多さに嫌気が差していたが、皇太子はあくまでも攻撃続行を決意していた。ドイツ軍は目標をル・モルトンム丘に転換し、5月に占領に成功した。5月初旬、ペタン将軍はラングル・ド・カリー将軍の後を継いでシャンティイの中央諸軍会議のフランス本営司令官(Grand quartier général)に転出し、ヴェルダン地区防衛はニヴェル将軍に任される。6月7日、ドイツ軍はやっとのことでヴォー堡塁を占領した。これによりフォッシュ将軍は撤退を考え始めた。だが、ドイツ軍の攻撃もそれまでだった。イギリス軍によるソンム攻勢とロシア軍によるブルシーロフ攻勢が起こり、ドイツ軍はそちらの方面に戦力を回さなければならなくなる。ヴェルダン攻撃は次第に尻すぼみとなっていった。


8月からは攻守交替してフランス軍が反撃に転じた。10月24日の攻勢では甚大な損害を出しながらドゥオモン要塞を奪い返したがこの際要塞は大爆発による事故で破壊された。12月15日の攻勢ではヴォー堡塁など多くの失地を回復したが、この戦いでは移動弾幕射撃がフランス軍で採用された。ドイツ軍はヴェルダン戦の攻撃で固定弾幕を躍進させることにより歩兵を援護する方法を用いたが、フランス軍の発案した移動弾幕射撃はこれをより進化させたものである。つまりドイツ軍の方法は弾幕を一陣地から一陣地まで一挙に躍進させるものであるが、フランス軍の移動弾幕射撃は歩兵の前進間終始その前方に射弾幕を設けるものであった。一連の回復攻撃により、12月中旬にはドイツ軍に占領された全地域を取り戻した。

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二度の世界大戦について 佐々木悠 @Itsuki515

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