第2話 新たな謎と少女の正体
龍一郎はどれぐらいテラヴィを走らせたのだろうか 隙間風に吹かれ 横乗りさせた謎の少女の存在すら忘れかけていた カーラジオからは[心変わり]が流れ いつか星空が朝焼けに変わる
龍一郎はふと国道沿いの道の駅に立ち寄ると一台の冷凍車に向かって歩く 冷凍車の運転手も龍一郎に気づいたか ドアを開けステップから降りた
「おっとお久だな~龍くん ここで逢うとはな~」
冷凍車の運転手は熊崎という男だ 龍一郎の兄貴分にあたるだろう
「熊さんお疲れ様です~お久しぶりです~」
龍一郎は頭を下げ熊崎と挨拶を交わす
すると近くに止まっていたトレーラーから1人の貫禄ある大男が降りてきた 龍一郎に熊崎を見ると 掠れしかし威厳ある声で
「おい若いもん達よ お前さん達がグランドするならワシも入れてくれな~」
「こ...これはこれは大森さん お疲れ様です!!」龍一郎が慌てて挨拶をする
熊崎も
「大森さんお疲れ様です!! 龍くんと丁度今逢ったんですぜ」
3人のトラック野郎がベンチに腰かけ 長い付き合いの相棒を眺めながら楽しく話していた
...その声が聞こえるはずもないあの謎の少女にも聞かれてる事を知らずに...
大森はふと旧道を指してこんな事を言った
「お前さん達若いもんは知らんかもな...あの旧道は注意せぇ...得体の知れん"何か"が出るんだぜ...」
「な...なんですかそれは」熊崎が興味津々に言った
龍一郎も旧道に関心を持ち始めた
大森は続けてこう言った
「そうだな...あれはワシが4トンで青果便走ってた頃か...もう20数年前だよ...先輩運転手とランデブーしてたんや...あの急カーブ曲がった先に洋館の廃墟があったな...先輩運転手がそこで何故かラッパ鳴らしてんよ...急ブレーキもかけてな...ワシャびっくりした あんな慌てた先輩なぞ見た事ねぇ...無線からは先輩の怒鳴り声 そして先輩がトラックを降りたんだよ...」
熊崎と龍一郎は真剣に聞いていた
「訳分からんからなワシもトラック降りたんや...そしたらな...紅に染る髪を持った女が立ってたんだよ...ただもんじゃねぇ...先輩もワシも怯んだ...慌ててトラックを出したよ...そしたら急に眩く周りが光ってな...女は光の中に消えた...」
熊崎も龍一郎も驚いた 昔からあの旧道は幻が出ると聞いていたが こんな鮮明なのは初めてだ
...もちろんこの話は謎の少女にも聞こえていた...
謎の少女は舌打ちひとつし 「邪魔者が入ってきたなぁ...まずいことになったわね...」と呟き 鋭く周りを見回した
...ところが大森の話を謎の少女だけが聞いてた訳じゃない 謎の集団にも聞かれていた
...とても人間とは思えない"何か"の集団に...
「どうやら...あの真ん中の男がターゲットですよ...どうしましょうか?」
「もう少し 様子を見るわ...近藤龍一郎 必ず見つけるわ...それにしても20数年前の私を覚えてるなんて...フフフ...面白いじゃない...あの大森って男は」
リーダー格の女は落ち着いた声で言った
「今日は1回退散ね みんな戻りましょ 邪魔者がどうやら近くにいるようね...どんどん面白くなっていくわ...」
リーダー格の女は少し声をあげて言った
その頃3人のトラック野郎は各自の車両に戻った 大森は帰り便のマグロを届けるらしい 熊崎は鮮魚市場へ向かうようだ
龍一郎も自分のダンプに乗り込みエンジンキーを回す
3台は 道の駅を出た けたたましく泣き別れのラッパが鳴り響く 次に集まるのはいつだろうと龍一郎は切なくなった
朝焼けの中を突き抜けるテラヴィ 旧道へまっしぐらと突っ走った
苔が生え茂ったアスファルト 軋むタイヤ 急カーブが見えた時謎の少女は突然こんな事を言った
「すみません...ちょっと 止まっていただけませんか?」その声には不気味さが少々混じっていた
龍一郎は訳が分からなかったが言われた通り止めた
すると謎の少女は突然光に包まれ 気づけばその少女の背中から 漆黒の翼が生え 少女の手には妖しく光る槍が握られていた...
龍一郎は なんじゃそりゃと言わんばかりの目で見つめる
少女は不気味そうに微笑み
「近藤龍一郎さんね あなたを消しに来たわ... 5時間程度あなたと会ったけど 消しざるを得ないようね...あの計画の為なら...」
龍一郎はすでに自暴自棄だった
家族も居ないし仲間とも逢えなくなる
生き甲斐のダンプ屋も出来なくなるならば死んだがマシだと考えた矢先に言われたのだ
「おう!!やるならやれ 俺は怖くなんか無い どうせ俺には希望も無いさ ならば死んだかマシだよ!!」
龍一郎はそう言い捨て少女を見る
少女の心内では少し動揺した
自暴自棄なところが共通してたからだ...
少女はしばらく黙った後 口を開いた...
「死ぬの 怖く無いの? あたしに消されるの 怖く無いの?」
龍一郎は考えもせずに「そんなもん怖くねぇよ!!死ぬのが怖くてハンドル握れるか!!」
少女は...どうしたらいいか 迷ってしまった
続く
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