口にしないとわからない。

 佃煮の味は食べなければ知ることができない。佃煮がある、という情報だけではどんな味か主観的に捉えられない。ただ食べるには勇気が必要で、そのときをいつ迎えるかという話。

 彼女が海苔の佃煮になっていた。から始まる衝撃的な一文からはじまる物語。現実とは思えないそれを目の当たりにしてからの主人公の時間の過ごし方が、静かな変質に感じられます。目の前で起こった異常をすぐには受け入れられない。けれど毎日は変わらずに過ぎていく。ふわふわとした毎日は不可思議にも感じますが、最終話でそれまでの流れから一変します。カタルシスというか、最終話で彼がとった行動こそが、ひとつの受容なのかもしれないと、感じた次第です。

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