究極の愛、それはどこまでも一方通行で

ある日、彼女が海苔の佃煮になる。

え? 何を言っているのかって?
小説の話である。そこを否定されると話が進まないので、まあそういうものかと聞いてもらいたい。

そう、彼女が海苔の佃煮になる。

多くの読者はこの奇抜なシチュエーションに、ある有名な海外小説を思い浮かべる事だろう。

私はそれこそ正にこの小説を書いた作者の思惑なのではないかと疑っている。つまりこれはカフカ『変身』に対するアンサーソングであり、また一方で『変身』の対極を描いた作品なのだ。

作者は最後に主人公を通してこう投げ掛ける。
「多分僕は、おそらく僕は、やっぱり僕は……」
この後にはいったいどんな言葉が続くのか。あなたならそこに何を入れる?
私ならこうだ。
――やっぱり僕は彼女を愛している。

一読の価値あり。そして一読した後は二度、三度、繰り返し読むと良い。その度に違った景色が見えてくるだろう。

名作とはそういうものだ。

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