第7話 教師 今井文也

17:00職員用トイレ


丁度か。

中々出ない。

出て欲しくない時には止めどなく出る癖して。


俺は20年来、過敏性腸症候群と言う病気と付き合っている。


端的に言えば、緊張すると屁が止まらなくなる。


大概精神的なものから来るらしいが俺の場合、葬式やら高級なレストランやら何かの契約中やら他人がいるのにやたら静かな環境と言うのが精神的ストレスになる。


今日行われる会議なんて俺の一番不得意とするものだ。


ガヤガヤと雑談的に話し合うならいいが。


そもそも何故担任の俺ではなく副担任主体でそんな会を開かなくてはならない?

なんだ会議って?話し合いだろ?ただの。


言わせて貰えば、虐めなんて裁いてどうなる?


大人が「やめろ」と言えば、そしてその後も見張っていればそりゃあ子供も観念して従うだろうよ。


しかしそれは上からの圧力によって抑える形なだけであって、虐められっ子は「その場所で」虐められなくなっても気質的に虐められっ子には違いない。

虐めっ子は「そいつを」虐めなくても生涯誰かしら弱者を見つけ虐め通す。


それが摂理なのは分かってるじゃないか。


学校に何を求めている?


変わらないんだよ。持って生まれた気質は。


そんなことよりそろそろ出しとかなくては。

今の内に今日一日分を出しておかなければ話し合い中にぶっこいたら目も当てられない。


俺はこの「篭もり」の習慣を手に入れ、篭もり中に一日分出し切ると言う荒技を編み出した。


それなのに今日にかぎって出ない。


くそが。



(おっと、ラインか?ん?神波からだな。)



「今日の話し合い、俺大丈夫だよね?」


意外に気の小さい奴だ。

なぜか副担任の芳根はこいつを主犯と決めつけているが、こいつはただの小悪党だ。

主犯は山口なのだ。


「やっていないことは堂々とやってないと言って、毅然としていなさい。大丈夫だから。」


しまった。こいつは「毅然」が読めるだろうかと思ったがまあいい。

とりあえず安心させてやることにした。


神波、お前を守るのはお前の為じゃない。

ある意味俺のためだ。

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