あなたのためのものがたり わらえ。

100年前に書かれたコズミック・ホラーを飽きもせず読み返し、サメやゾンビの溢れるB級映画を薄笑いと共に流し見るのをこよなく愛す酔狂者にとって、とかくweb小説は食い合わせの悪いもので。稀稀舌に馴染む作品に行き当たるのは、僥倖以外の何ものでもなく。

数寄者にして一徹者の作者、雪車町氏の紡ぐ本作は、その満たされない飢えを満たす希有にして珠玉の一品。

都市伝説に動画配信。最新のトレンドを取り入れた、和製ホラーの定型が展開する序盤。現れては退場するディフォルメの効いた霊能者たち。

主人公たち撮影班と、呪いの主体・泥泪サマとの対決で終わる程度の物語ではなく。仄見える宗教団体の暗躍により、事態は創世の神話の絡む世界改編の危機にまで膨らんで行く。巧みな口三味線。正しく大風呂敷。

どろどろと零れる生々しい恐怖を縦糸に、ヒーローものめいた正義と信念を横糸に編まれるグラン・ギニョールに、“笑う”という主題を大団円、そのまた後の余韻まで生かす、作者の細やかな手腕には感服。

個々の設定を取り上げても見るものは多く、私としては作中作の『いるかのお姫さまはびょうきです』と、始まりの死・朽酒女菟のキャラ造形に感興をそそられる。あとTAKASHI。

誰の口にも合うとは保証しかねる怪作ながら、怖々とでも先ずはひと口如何か。

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