物語のジャンルはホラー。
怪異が描かれ人死にも出ているものの、どこか陽性で爽やかな読後感なのは、主人公である日華の己の生死すら割り切った在り方と、妖異神変に対し、恐怖を抱かず畏怖をもって当たるその姿勢からか。
人の命が紙よりも軽い太陽の消えた世界。相棒は訳ありふうな偽巫女・藍奈。それでも日華は投げ出さず逃げ出さず、様々な怪異絡みの手間仕事に手を染め首を突っ込む。膨大な借金のため、莫大な報酬のために。
そう。金のためという建前があるからこそ物語はコミカルで、心の内に折れず曲がらぬ矜持を秘めているからこそ単なる恐怖譚に留まらない。
幾度も語られ耳に馴染んだ怪異を、解釈を変え語り直す知的な小気味良さ。ライトでポップなバディものとして、微百合な関係性も物語を読み進めるアクセントになっている。
日華と藍奈の関係性も世界の在り方も、共にまだまだ語り尽されてはいない。二人の冒険譚を、またいつか楽しみたいところ。
金に困っている女の子達が危険なバイトをして怖い目に遭う、超簡単に説明するとそんな話です。
楽しい。ホラーなんで怖いんですが読んでて毎回楽しい。
主役となる二人は何だかんだ修羅場慣れしていて、キャーキャー叫ぶ感じではありません。でも、怪異の脅威は毎度毎度真に迫り、追い詰められて知恵や度胸で生き延びるスリルがあって、読み進めていくと病みつきになります。登場する怪異もまたネットや書籍、伝承を基に作り上げた逸品がずらりと並び、怪談に詳しい方なら二ヤリとなること請負い。いつまでも飽きが来ずに読み進められるよう工夫が尽くされていて、作者様には敬意しかありません。
そしてまた、ストーリーも面白い! お日さまが無くなって世界はどうかしてる。借金の為とは言え平然と目玉や内臓を売り飛ばす彼女もどうかしてる。巫女服着て毒舌の相棒もどうかしてる。そんなどうかしてるように見える物語が、続けば続くほど愛おしくなっていく。若い彼女達は賢くも直向きで、懸命にバイトに取り組みます。ホラーではありますが、間違いなくお仕事モノでもある。どうしてお金を稼ぐのか、どうして生きていくのか、ホラーとして命の極限の中で、人生の大きなテーマが垣間見えてくる。これを青春と言わず何と言おうか!
素晴らしい作品です。是非貴方もご一読を。
ちなみに、本作を読んだ後(読む前でも)で、小説家になろうで本作のタイトルを検索してみると更に本作を楽しめると思います。お試しあれ!
小説家になろう版の本作も拝読しております。
なろう版とカクヨム版では大筋は同様ですが、細かな差異や途中途中のエピソードがまるごと入れ替わっていたりと、なろう版に目を通した方でも楽しめるような工夫が随所に見られます。
本作の結末も、なろう版とカクヨム版の差異の積み重ねによって導かれた異なるラストになっており、むしろなろう版の本作を一度読んだ方にこそ、カクヨム版の本作もオススメしたいと強く感じました。
本作ではなろう版にくらべ主人公である架城日華の能動性、積極性に若干の上方修正が加えられており、それによってなろう版ではやや傍観者、観察者的な立場であった架城日華の立ち位置が、より自らの判断や決断によって導かれた印象になるよう変更されています。
繰り返しになりますが、もし本作をカクヨム上で読んで興味を持った方は、ぜひなろう版の本作もごご覧になってその差異を楽しまれることを推奨します。まさに一粒で二度美味しい。比喩ではなく実際にそうなっている本作の構造は見事と言わざるを得ません。
さて、本作はジャンルで言えばホラー作品ではありますが、普段ホラーや恐怖系の作品を苦手とする方でも楽しめるように工夫されています。
しかしだからといってホラー要素が薄いかと言えばそんなことは一切無く、豊富な知識と熟練の筆致による重厚なホラー描写を下敷きにして、そこに冒険活劇のような味付けを施した作品となっています。
ぜひぜひ、普段ホラーやスリラー作品を読まないような方にも広く手にとって頂きたい作品です。もしかしたら、今までのホラーや怪異、怪談に対する見方が変わるかも知れません!!
ありがとうございました!!!!