売れない作家のかたわら、病床の子供たちを楽しませるホスピタル・クラウンとして活動している橘風太は先輩の作家から仕事を紹介される。
それはある動画配信者の心霊スポット探索にスタッフとして同行すること。この動画配信者が幼馴染の黛希歌であったこともあり、気軽に引き受けた風太が現場のスタッフから聞かされたのは泥泪サマと呼ばれる都市伝説。決して珍しいものではなく、そこまで深刻に考えていなかった風太だが、だがこの撮影が何人もの死者を生む大事件の始まりだった……。
撮影の序盤は被害者遺族へのインタビューに始まり、自称霊能力者によるお祓いのパフォーマンスなど、映画のJホラーのような静かな不穏さがちらつくのだが、撮影陣が泥泪サマの実物までたどり着くと、物語の様相は大きく変わり、怪異が実態を持って風太たちに襲い掛かっていく。
この怪異に対抗すべく次々に胡散臭い霊能力者が登場しては逆に殺されていくのだが、泥泪サマの被害が拡大するにつれて、より高位の力を持った霊能力者たちが登場するという物語のインフレ具合が少年漫画や伝奇小説のようでいて不気味な反面少し楽しい。
また、日々子供たちを笑顔にする仕事をする風太をはじめ、ゴスロリ衣装に身を包んで怪奇スポットに体当たりする幼馴染、ガチの怪奇現象を前にしても撮影をやめないディレクターや、次々に登場しては散っていく不気味な霊能力者たち、やたら鬱陶しい自称人気配信者のTAKASHIなど、登場人物たちがやたらキャラが立っている点も評価したい。
(「僕らはみんなバズりたい! 配信系特集!」4選/文=柿崎憲)
100年前に書かれたコズミック・ホラーを飽きもせず読み返し、サメやゾンビの溢れるB級映画を薄笑いと共に流し見るのをこよなく愛す酔狂者にとって、とかくweb小説は食い合わせの悪いもので。稀稀舌に馴染む作品に行き当たるのは、僥倖以外の何ものでもなく。
数寄者にして一徹者の作者、雪車町氏の紡ぐ本作は、その満たされない飢えを満たす希有にして珠玉の一品。
都市伝説に動画配信。最新のトレンドを取り入れた、和製ホラーの定型が展開する序盤。現れては退場するディフォルメの効いた霊能者たち。
主人公たち撮影班と、呪いの主体・泥泪サマとの対決で終わる程度の物語ではなく。仄見える宗教団体の暗躍により、事態は創世の神話の絡む世界改編の危機にまで膨らんで行く。巧みな口三味線。正しく大風呂敷。
どろどろと零れる生々しい恐怖を縦糸に、ヒーローものめいた正義と信念を横糸に編まれるグラン・ギニョールに、“笑う”という主題を大団円、そのまた後の余韻まで生かす、作者の細やかな手腕には感服。
個々の設定を取り上げても見るものは多く、私としては作中作の『いるかのお姫さまはびょうきです』と、始まりの死・朽酒女菟のキャラ造形に感興をそそられる。あとTAKASHI。
誰の口にも合うとは保証しかねる怪作ながら、怖々とでも先ずはひと口如何か。
泥目と呼ばれる怪異と祟りを巡る、傑作ホラー小説。
圧倒的な知識と惚れ惚れするような筆致、そして興奮の止まらない展開は作者様の素晴らしい才能で、いつも安心して読める。
そして今作は特に、対比構造がとても興味深かった。
古より続くと言われる「祟り」や「呪い」と、新時代コンテンツである「動画投稿者」
聖なる物の象徴とされる「水」と、濁りにまみれた「泥」
そして、怪異の「嗤い」と、ホスピタルクラウンである主人公が求める「笑い」
対比されるからこそ、ギャップと歪さが浮き彫りになって、その狭間で読者は揺れながら夢中になって読了していく。
極上のエンターテインメント、オススメです! でも夜に読むのは注意!
タイトルにも「嗤う」、チャッチコピーにも「笑う」があるように、ひと言で言っても多様なカタチがある「わらう」ことが、テーマになっているように感じてます。
実際、都市伝説の泥泪さまや、主人公のホスピタルクラウン風太の緊張したときの癖や、度々「えがお」に触れていくことになります。もちろん、恐怖や狂気をもよおす「えがお」にもです。
さてと、ホラー映画が好きな方ならわかってくれると思いますが、独特なワクワク感がありますよね。
(この胡散臭いやつ、すぐに死にそう)
(いや、意外としぶとかったりしてw)
などなど、怖いけど興奮気味に先の展開に期待しがちな人は、少なくないはずです。
この「嗤う泥泪」は、まさにそういった読むことで良質なホラー映画を楽しめます。
幼馴染のゴスロリオカルト動画配信者に、自称霊能者(弟子付き)、あからさまに胡散臭い作家様、意外としぶといかもしれないKYすぎるチャラ男、意外と頼りがいあるけど早くリタイヤするかもしれないディレクターなどなど、いかにもエキサイティングな登場人物たちに、ワクワクドキドキしませんか?しますよね?しますよね?
そういう人は、読まなきゃもったいないです!!