善き絆は「チート」に勝る

 異世界に転移させられる、といえばいまでこそお楽しみ盛りだくさんを期待される憧れのシチュエーションだが、ちょっと昔はそうでもなかったのだ。

 文化も法も慣習も違う、人の命の価値もおぞましいほどに軽い異世界に、裸一貫で放り出され孤軍奮闘を強いられたとしたら、大抵はあっという間に落ちるところまで落ちて、野垂れ死ぬしかない――それこそ特権的な「チート」スキルや初期設定を間違えてバグったようなステータスでも有していない限りは。(本来異世界ものの「チート」の始まりはそんな世界の圧力に対する抜け道としての形だったと思うのだ)

 この物語の主人公、当初名無しの「僕」もまた不運な経過をたどりつつあった。
 だけど言葉も通じぬまま必死で生き抜いた一週間と、その成果を手放すまいと抗った意思が、ギリギリのチャンスを呼び寄せる。

 転移者ならぬ転生者、リーナとの出会い。それはこの世界での人類の敵対種「飛竜」との果てしない闘争に身を置くことを意味したのだが――

 自分の矜持を託すに足る機体を手に入れ、手に余るかの戦いを幾たびか経て、彼は初めて自分を支える人々の、個々の事情と内心に踏み込んで行動する決意をした。

 このタイミングで、現時点まずは大きな一区切りという感じになっている。

 与えられた(借りものであっても)力を最大限に駆使して、ただ自分の身命だけでなく、最初の一週間を生き延びさせてくれた街のために戦う主人公の姿が心地よい。未熟ゆえの失敗は多々あっても、それをフォローしてくれる師匠はじめ周囲の人々の存在が何にもまして嬉しい。

 これは単に異世界にロボットを持ち込んだ、というだけではなく、ごくごく真っ当な少年が逆境を乗り越え、敬愛すべき人を手本、目標に自分の居場所を築き上げ、守っていく、正統派の成長物語であると思う。

さて、主人公は果たして師匠と肩を並べる高みに登れるか、そしていつかは師匠と弟子という関係から一歩先へ進めるのか。

 ハラハラとニヤニヤを味わいながら、今後も楽しんで追いかけたい。

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