マリア様は胎教中!

作者 Veilchen(悠井すみれ)

83

32人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

綿密に練られたディストピアの世界✕臨場感溢れる描写=一気読みするしかない!

意思も気も強い、現実的で賢い主人公の視点で描かれる本作品。非常に読みやすいです。情報の出し方が上手なのかスンと頭に入ってきました。彼女を取り巻く世界は非情で混沌としていますが、「主人公が母親になるまでの物語」なのだと個人的に思っています。
主人公にとっての幸せとは何なのか、というテーマも多分に含まれていると思いますが。

本作品と似た世界観を持つディストピア小説の金字塔に『侍女の物語』があります。そちらを読んだ方ならより一層楽しめそうだと思いました。

★★ Very Good!!

近未来。物理的に階層化された社会の最下層の少女が最上層の夫婦のための代理母として子宮を提供する――という設定自体は、正直さほど目新しくは感じなかった。だが、主人公マリアの活き活きとした一人称の語りのために、典型的なディストピア物ながら独特の明るさと軽さを具えているため、非常に読みやすく感じられた。途中、とりわけテロリストによる銃撃戦のあたりからはどうなることかとハラハラしたが、ともかくも主要人物が誰も死なずに終わってくれて何だかほっとしてしまった。そしてふと、これは「神の子」が楽園へ復帰する以前のプロローグなのではないかと感じた。

★★★ Excellent!!!

 露悪的でセンセーショナルなタイトルとキャッチコピー。人によってはうわっと目を背けて逃げ出すかもしれない。背徳的な興味を引かれてページをめくるかもしれない。

 だけどこの物語は、読者のそんな先入観や予想をあっさりと突き飛ばして、軽やかな足取りで遠い未来の超格差社会の中を駆け抜けていく。

 地球レベルでの環境破壊と汚染の果てに人類が作り上げた「汚れたミルフィーユ」と例えられる階層世界。そこは文字通り泥の中をはいずって生きる人々の住む最下層(ゲヘナ)から、キリスト教の天国になぞらえられた上層部の楽園までが、高く高く積み重ねられ、厳しく分断されていて。
 そんな社会の底辺で生まれ育った少女が、辛くも守り通した処女と健康を手に上層の社会へ這い上がり、安楽と引き換えに自覚のないまま搾取されていく――

 なあんて、深刻な紹介をしようと試みるとどうにも困ってしまうのだ(苦笑)。

 橋本治の「桃尻娘」や新井素子の諸作品に通じるような、主人公マリアのハイテンションで前向きな語り口調が、読み手の大人ぶった良識を「余計なお世話よ」とばかりにとっちめてくれて、いつの間にか胎内に預かった雇用主の子供を大切に大切に守ろうとする、彼女の気持ちに同調してしまう。
 所詮はマリアの出身階層よりも上層の、恵まれた環境で生きている家政婦や医師が投げかけてくる「もっと自分を大切に」的なお説教。なんと煩わしく邪魔っ気に感じてしまうことか。

 だが、自分の中で育っていく存在の重大な秘密に気が付いてそれに向き合う中で、マリアは望むと望まざるとに関わりなく、世界の矛盾と向き合うことを余儀なくされてしまうのだ。

 さあ、それでどうなってどうなるのさ――それは読んでいただくしかない。

 ただ、同様のテーマを扱った数多の作品を思い返してこの物語を振り返ると、これが単なるディストピアを描いたものではないことが分か… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

実の所、恥ずかしながらこれまでディストピア小説というものは基本男性視点のものしか嗜んでいませんでした。

完全に管理され、歪んだ階層社会の中で足掻き。場合によっては暴力や知恵、あるいは外に踏み出す事で状況を打破する。枠組みを壊し明日を掴む物語が殆どで。

当然、主人公が女性の場合もあったかもしれませんが。それでも彼女たちは大抵の場合、女性らしさではなく、男性と同じ手段で世界に立ち向かっていて。

そういう意味で本作のマリアは僕にとって衝撃的なキャラクターでした。

我々から見れば恐ろしいディストピアの中で、彼女なりに理性と正しさを持って少しでもマシな未来を掴もうと。足掻いていく姿は彼女の真っ直ぐなキャラクター性は強く心に刺さってきます。

そして、最終的に彼女が選んだ選択肢に関しては語るに野暮なので言及しませんが。ある意味マリアの処女受胎、代理母、格差社会といったありふれた素材で、ありふれた出産というテーマを描きながらも非常に刺激的で。

最後まで自分と、自分が育むものの価値を歌い上げた本作はマタニティパンクと呼ぶに相応しい快作だと思います。

★★★ Excellent!!!

『持てるものと持たざるものとに分断されるディストピア的未来社会で、下層階級の女性が支配層たちの代理母になる』という設定から侍女の物語を彷彿させますが、大きく違っている点は、主人公の少女のキャラクターです。

本作の主人公は、『マリア』の名が示すように、理不尽な社会でも強い自信と賢さを持つ、生命力溢れる少女です。

周りの者達が眉をひそめる中、「豊かで安全な暮らしをするためには、子宮を貸し出すぐらいなんでもない」、堂々とそう言い切るマリアが宿したのは、しかし、ただの胎児ではないようです。

はたして、マリアが宿した子の正体は?