異世界に召喚された「僕」は巨大な人型兵器に追い詰められ、絶体絶命の窮地を迎える。土壇場で決死の意地を示した「僕」の前に現れたのは、”赤い悪夢”と呼ばれる赤毛の美女と、彼女が操る真紅の竜殺機兵(ドラグーン)だった……!!
現実と異なる世界を舞台としたSFやファンタジー作品では、世界観や小道具・設定の説明に尺を取られすぎ、結果として物語のテンポが悪くなるということがプロ・アマ問わずしばしば起こる。
もっとも、この作品に関しては最初から最後までそうした懸念はご無用。いきなりのピンチから始まる第一話からエピローグまで、文字通り「駆り翔る」ような疾走感とともに駆け抜けていく。二十万字ちかい大長編でありながら展開が中だるみすることもなく、高いテンションと熱量を維持したまま突っ走っていく物語は、スピード感とキレのある文体とあいまって爽快な読後感をもたらしてくれること請け合いである。
ロボット好きとしては折々に触れられる竜殺機兵のメカニカル描写も見逃せないポイント。
竜の神経で編まれた動作プログラム、水銀のモニターといったSFとは一味違うファンタジー世界ならではのメカ設定はどれも魅力的だ。
主役級のルージュクロウやライズルースターはもちろんのこと、量産型のB級機兵スタリオンにもそれぞれに特徴があり、多彩なメカが織りなすロボットものの妙味を充分に堪能出来るだろう。
少年と女師匠の時に甘く、時に切なく、そして激しい関係の変遷も見どころ。
メカニックの少女が加わり、苛烈な戦いの中でそれぞれの想いが紡がれていく。
駆け抜けた物語の果て、彼と彼女たちが辿り着いた結末は、ぜひあなたの目で見届けてほしい。
異世界で搭乗型ロボットに乗ることになる主人公の物語です。
竜から人々を守るために竜殺機兵と呼ばれるロボットがある世界。しかしダイナマイトという土木等の発明が、戦争の爆弾に変えられたこちらの世界と同じく、異世界であっても技術は悪にも使われる。
そんな異世界へと転移し、言葉も通じない主人公は無法者の駆るロボに襲われ、絶体絶命に陥るのだが……。
ややあっさりと決めすぎな感もあるが、曲げないところは決して曲げない主人公。ある意味、超有能だけど、性格にアレなところのある師匠。その他、ネタバレ防止のため書けませんが、癖が強いものの、とても魅力的なキャラクターに溢れています。
何より竜殺機兵の戦闘シーンが格好良いです。全体としての汎用性の高さと、機体ごとのピーキーさのバランスも良いです。
短文でスパスパと書かれた文章が、登場人物の思考そのままのように感じる軽妙な文で好ましく感じました。
格好良い搭乗型ロボ乗りの少年の成長物語を読みたい方におすすめします。
異世界に転移させられる、といえばいまでこそお楽しみ盛りだくさんを期待される憧れのシチュエーションだが、ちょっと昔はそうでもなかったのだ。
文化も法も慣習も違う、人の命の価値もおぞましいほどに軽い異世界に、裸一貫で放り出され孤軍奮闘を強いられたとしたら、大抵はあっという間に落ちるところまで落ちて、野垂れ死ぬしかない――それこそ特権的な「チート」スキルや初期設定を間違えてバグったようなステータスでも有していない限りは。(本来異世界ものの「チート」の始まりはそんな世界の圧力に対する抜け道としての形だったと思うのだ)
この物語の主人公、当初名無しの「僕」もまた不運な経過をたどりつつあった。
だけど言葉も通じぬまま必死で生き抜いた一週間と、その成果を手放すまいと抗った意思が、ギリギリのチャンスを呼び寄せる。
転移者ならぬ転生者、リーナとの出会い。それはこの世界での人類の敵対種「飛竜」との果てしない闘争に身を置くことを意味したのだが――
自分の矜持を託すに足る機体を手に入れ、手に余るかの戦いを幾たびか経て、彼は初めて自分を支える人々の、個々の事情と内心に踏み込んで行動する決意をした。
このタイミングで、現時点まずは大きな一区切りという感じになっている。
与えられた(借りものであっても)力を最大限に駆使して、ただ自分の身命だけでなく、最初の一週間を生き延びさせてくれた街のために戦う主人公の姿が心地よい。未熟ゆえの失敗は多々あっても、それをフォローしてくれる師匠はじめ周囲の人々の存在が何にもまして嬉しい。
これは単に異世界にロボットを持ち込んだ、というだけではなく、ごくごく真っ当な少年が逆境を乗り越え、敬愛すべき人を手本、目標に自分の居場所を築き上げ、守っていく、正統派の成長物語であると思う。
さて、主人公は果たして師匠と肩を並べる高みに登れるか、そしていつかは師匠と弟子という関係から一歩先へ進めるのか。
ハラハラとニヤニヤを味わいながら、今後も楽しんで追いかけたい。