★★★ Excellent!!!
生命は、豊かな和音を奏でる 冴吹稔
何処とも定かにされずただ「南」と示される海。そこに、神々が施した大気と光の結界で守られた、小さな美しい島があって――
この私たちにはただただ他所事の楽園としか思えない島にも、人が生きることの、人が社会の中で生きていく上での、どうにも苦しくやるせない軋轢と悲しみが普遍のものとして在る。
踊り子の島に生まれながら他の人のように巧みに踊れない娘フラミィは、体を半神のルグ・ルグ婆さんに譲ってもいいと思うほどに傷つき苦しんで、それでもやはり踊る事への希望を求め、そのためのカギを探して島中を――小さな彼女にとっては全世界に等しい空間を経巡って歩く。
作者、梨鳥ふるりさんはまごうことなくある種の天才だ。計算や思惑といった俗な操作をすっ飛ばしたところでモノを書いてるフシがある。だから作中に描かれる事象は、いかにもな物語然とした折り目正しさや無駄のない相関性とは無縁であるかのように、突拍子もないところに配置され無作為めいて振る舞うのだ。
おかげでフラミィの探索は一見どうにも的外れなところをぐるぐると彷徨うばかりでまるきり進展せず、代わりにこの島の豊かさ美しさ、神秘性を無邪気に丹念にすくい上げて確かめていく旅路になる。そうこうするうちに、島を取り巻く情勢が明かされ、外界の人間が何ともロマンの香り漂うフロート付きの水上飛行機で現れる、といった思いもかけぬ展開に、読者も翻弄されるのだが――
結局のところそれは全部、この島とそれを取り巻くサンゴ礁の世界の中の、深層の部分で複雑に繋がり絡み合っていて、一つをほどきだすと魔法のように一つまた一つと本当の姿が明らかになっていく。
もどかしさに身もだえしながら必死で進んでいくと、そこに答えがある。まるで人生そのもののようだし、そして物語の中のそれは、やはり作者の手の中にあるのだ。
飛行機の青年・パーシーがこの祝福された島々に対し…
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