少女の成長と人々の心が、魅力的な世界で描かれた素晴らしいファンタジー

泡に守られるようにぷかりと海に浮かぶ美しい島。
老婆の姿の踊りの女神、ルグルグによって守られるこの島は、踊りを愛し、踊りを神に捧げる習慣があります。
けれど島の踊り子フラミィは、他の踊り子のように上手く踊ることができず、とうとうある事件により、踊ることを禁止されてしまいます。
悲嘆にくれる彼女の前にルグルグ婆さんが現れ、老婆の体ではなくフラミィの若い体が欲しいと言います。
けれど、ルグルグ婆さんはフラミィの足の親指の骨が欠けていることを発見し、そのために上手く踊れなかったのだと分かります。
フラミィはルグルグ婆さんに言われるまま骨探しを始めますが、そんな折、外の世界から一人の若者が飛行機に乗ってやってきます。
 
フラミィをはじめ、骨探しを手伝ってくれる弟分のタロタロや島に興味津々の若者パーシヴァル、島で最も優れた踊り子で高慢なエピリカ、フラミィのママ、島の長・オジーなど、様々な人々の心に触れながら、物語は島の、フラミィの、世界の深部へと読み手をいざなっていきます。
 
魅力的なところがありすぎて、何から書けばいいのか分からなくなりますが、中でもまず触れたいのが、人々の描き方です。
主人公のフラミィは心根の優しい少女だけれど甘ったれなところもあり、エピリカは意地悪で高慢に見えるけれどその心は外からはかり知ることが出来ないほど深淵にまで続いています。
フラミィのママの娘への愛情は分かりやすい優しさや信頼として表れてはいませんが、それが確かなものであることもしっかりと感じ取れますし、善良なパーシヴァルの内にも島や世界に対する複雑な思いが垣間見えます。
女神ルグルグ婆さんでさえ、とても人間味があり、利己的な(そして面白い)老婆かと思いきや内側には優しさも秘めています。
決して、人々は一面的には描かれていません。
彼らは多角的に、けれど優しさと理解を持って描き出されています。
そこから、物語の深さとそこで息づく者たちへの愛情を感じ、たいへん心惹かれました。
 
独特の世界観も、もちろん特筆に値するもので、踊りの島の風習やそこで信じられている神々の存在、生き物たち、広がる景色、全てが美しく優しく時に残酷で、魅力にあふれています。

その世界で動くキャラクターがいきいきと、ありありと目に浮かんでくるのは、筆力もさることながら、しっかりと構築された世界観と生きる人々の姿がしっかり呼応しているからでしょう。
 
物語もたいへん素晴らしいです。
フラミィの成長物語としてみてももちろん十分に読み応えがありますが、それに留まらず、島に伝わる神話や秘密、生き物、巡る命の不思議、そしてフラミィを取り巻く一人一人の心全てが見事に繋がり重なり一つの物語を織り成しています。
 
このお話を読めて幸せだったと思える作品でした。

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