守るべき人のために。世界一格好いいママは戦場へ向かう。

「さあ、さよならの時間だよ。」

近未来—―資源を巡る大戦争から、今ある世界が塗り替わってしまった世界。

そこでは、旧世界の残骸によって形作られた「スクラップ・クリーチャー」と呼ばれる怪物たちがいた。そんな怪物たちを狩り、かつ、その中にある貴重な資源を回収するための戦闘公務員—―それが「レアメタル・ハンター」である。

この作品で面白いのが、主人公の設定がシングルマザーという点です。

主人公のシュカは、戦闘公務員「レアメタル・ハンター」であると同時に、五歳の息子を一人で育てる母親でもあります。

スカイスーツと呼ばれる装備で空を駆け、マルチレールガン(複合電磁銃)やブレード・ウェポンで敵を粉砕してゆく姿は、読んでいて爽快であり、戦うヒロインとしての格好良さ満載です。しかし同時に、彼女は育児や家事に忙しない一人の母親でもあります。相反ような二つの顔、そのギャップがこの作品をよりクォリティの高いものへと成功させています。

私生活の描写は、子供を持つ女性であれば恐らくは誰もが共感しうるものでしょう。随所に挟まれる育児の描写、シングルマザーとしての苦労、息子に向けられる眼差しや愛情—―。それらの描写には、時として冷や冷やしたり、時として心が温かくなったりして、主人公を応援する気持ちへとつながってゆきます。

そうして訪れた物語の暗転――。

国の中枢から職場にかけて動いている黒い影、疑惑、スクラップ・クリーチャーや世界の成り立ちに潜む謎。そして街を襲う新たな敵の姿――。

この物語の要は、「相反する」と思われがちな主人公の二つの顔(戦うヒロインとしての顔・シングルマザーとしての顔)が、ストーリーの中で完全に交差している点です。守りたい大切な人――息子――がいるからこそ、彼女の戦いはより熱い意志に彩られたものとなり、読者としても手に汗を握り、かつ彼女を応援しながら読み進めることとなるのです。

そして訪れたクライマックスでは、全ての伏線と謎が回収されると同時に、胸の奥がキュッと締め付けられるような、切ないような思いに駆られます。

空を駆け、剣を振るい、銃を乱れ撃つ世界一かっこいいシングルマザーの話—―このキャッチコピーは、まさに物語の全てを表現しています。

ぜひ皆さん、ご一読ください。

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