「戦術行動② 迂回」
——迂回の概念——
迂回とは敵の待ち構えている箇所での戦闘を避け、他の目標へ前進することをいう。敵を有利な地形や場所から引き離し、こちらの選んだ場所での決戦を強要できる。難易度は高いが成功すれば圧倒的優位に立てるため、指揮官が最初に検討すべきとされる機動だ。
敵の側面から迂回するという点から包囲に近しいものもあるが、包囲は敵をその場で撃破するのに対し、迂回は敵を戦場から移動させるというものだ。
——迂回機動の目的——
一般的に防御部隊は攻撃部隊よりも戦闘力が劣勢であり、周到な準備や地形の利用によって劣勢部分を補填しようとする。例えば野戦築城を行なったり、塹壕を掘ったり、大砲を一斉に打ち込んだり、地雷やトーチカを設置したりして防御体制を万全とするのだ。
だからこそ迂回機動には意味がある。そもそもにおいて劣勢な敵部隊を強固な防衛陣地から引き離すことで、純粋な戦力優位を活かせるからだ。
もし敵軍を吊り出すことに失敗しても、迂回して敵後方に進出できた以上、攻撃目標にはこと欠かない。後方の補給基地、司令部、後方段列(主として砲兵隊)、飛行場などなど……。だからこそ迂回された敵は強固な防衛陣地を捨て、陣外決戦に打って出るしかなくなるのだ。迂回された軍隊が即座に消滅するわけではないため効果を軽視される場合もあるが、戦略、作戦、戦術のいかなる規模であっても有用な機動なのだ。
——迂回機動の効果——
迂回をされた場合、敵に及ぼす効果は以下の通りである。
①補給、増援を妨害される
後方に敵がいると、無防備な補給隊や移動中の増援が攻撃される恐れがある。すなわち補給線が寸断されたり、それに対する著しい脅威となる。
②後方に敵が現れたことで情報が錯乱する。
後方に敵が現れたということは、自らが敵中に取り残され包囲されつつあるか、後方の守るべき拠点が既に制圧された可能性を考慮しなければならなくなる。もし後方拠点の陥落が明らかだと判断したのなら、降伏する可能性がある。(事実かどうかに関わらず)
③敵に後方に回られたという事実から、そのルートを利用しての包囲を恐れる。
いつのまにか迂回されたという場合、敵に知らぬ間に包囲されるという危機感が生まれる。
④これまで確保し固めてきた防御設備を捨てて戦闘しなければならなくなる。
後方に回られたので前線にいることが無意味(遊兵化)になったり、前線維持のために後方を攻撃されるわけにはいかない場合、少なくとも迂回された部隊に対抗できるだけの戦力を後方に割かなくてはならない。しかも前線と違って自軍を守る防御設備はないので、不利であることを覚悟してだ。
⑤これまでは定位置で戦闘していたのに、移動して即戦闘、遭遇戦という新しい戦い方を要求される。
練度の低い部隊の場合、迂回された時点で勝算が絶望的になることもある。戦闘の方法からして重機関銃や重砲などを持っていくことは出来ないため、たとえ砲兵火力を保有していてもその有用性を発揮できない。
⑥既存の防衛線の計画が破綻する
初めから迂回される前提で防衛計画を立てた場合、もはやそれは防衛計画ではない。迂回路をあえて残し敵を誘引するなど想定内であった場合を除けば、緊急用のプランに作戦を変更するか、新しい作戦を立てなくてはならない。
⑦増大した前線に対応する戦力を送らなくてはならない。
迂回されたということは、敵と接する可能性のある箇所が一気に増大する。よって防衛兵力を新たに数多く配置しなければならない。いなければ前線を放棄し後退しなければならなくなる。
——迂回の方法——
迂回を行うには十分な準備が必要だ。
まず指揮官は自軍を迂回部隊、主力部隊そして予備隊に分け編成しなければならない。
この際に全部隊が独立して警戒と偵察を行える能力を持つ必要がある。何故なら行動開始と同時に各自がほぼ独立した機動を行うことになり、部隊間に距離がある状態で敵地へ侵入するからだ。つまり別働隊には別働隊で移動先を指示する指揮官が必要だし、障害を避ける能力が必要なのである。
米軍では師団規模かそれ以上の戦術的機動性を保有する部隊を用いて迂回を行うように指導されている。戦略規模、作戦規模での迂回だ。
また、迂回部隊の一部(後続の梯団)は外縁部を警戒し、迂回部隊への脅威を払う必要がある。
即ち高い移動力、突破力、迎撃力、対応力とそれを独力で維持する部隊のみ、迂回を成功させることが可能なのだ。当然精鋭でなくては務まらない。また迂回部隊は速度や練度、隠密性、主力の戦力、補給が許す限り突破力のある強力な部隊だと望ましい。
——迂回の危険性——
迂回した部隊は必然的に敵地で孤立することになるため、下手をすると包囲殲滅される恐れがある。
よってまず迂回先の緊要地形(丘、湖、交差点など守りやすい地形や交通の要所)に布陣し、即座に防衛陣地を構築する能力が必要だ。
また主力との連携が取れていなければ、迂回部隊はその有用性を全く活かすことができない。攻撃する部隊を間違えたり、時間を間違えたりしても迂回の効果は望めなくなる。
敵中で孤立することになるため、補給線の維持が大変に難しい。よって入念に補給の目処をつけなければならない。
自部隊だけが敵地にいるので、周囲が殆どて敵となり、味方と敵を誤認して同士討ちをするリスクが跳ね上がる。また予定外の場所にいると、味方の爆撃や砲撃にまきこまれる恐れもある。
更に迂回中に敵に意図がバレた場合、敵は十分な防御姿勢を整えて迎撃してくる。そうなると迂回の利点が失われるどころか、迂回部隊が奇襲を受けた格好となってしまう。
迂回は成功すれば大変かっこよく、敵を混乱に叩き落とせる高等戦術だが、その分難易度は極めて高い。とはいえ小説なら読者受けする戦術の一つであるため、やらせてみるのも手だ。
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